研究概要 |
植物細胞の巧妙な代謝制御や多様で効率のよい物質生産機能を化学および生化学的に解明し,このような機能を有機化学分子の合成や変換に直接的にあるいは間接的に活用するための基礎研究を行った。特に本研究では,これまでの研究により見出されたタバコ培養細胞による位体特異的物質変換機能のうち,炭素-炭素二重結合の還元(水素化)と酸化(酸素官能基導入)における不斉分子識別能に注目し,この機能の酵素化学的な解明とその機能を活用した物質合成法の開発を計った。 1.エノン系化合物の生物変換における培養細胞の還元機能を明確にするために,カルボンおよびベルベノールのカルボニル基と共役する炭素-炭素二重結合の還元に関与する酵素系をそれぞれ分画・精製し,その特性と酵素反応の特異性を調べた。カルボン還元酵素は補酵素および媒質からの水素原子をanti付加する反応に関与し,ベルベノン還元酵素はsyn付加する反応に関与することがわかった。 2.モノテルペン炭化水素類の炭素-炭素二重結合を鏡像体選択的にエポキシ化する機能をもつ酵素系をタバコ培養細胞から分画・生成した。この酵素は,ピネンなどの炭素-炭素二重結合のエナンチオ面を認識してそのre-re面から酸素原子を付加する反応を触媒することがわかった。 3.植物培養細胞の物質変換機能を物質合成に有効に活用するための技術開発として,固定化細胞系による物質変換を検討した。その結果,固定化培養細胞による変換は懸濁培養細胞による変換よりも変換収率および変換速度が大きいこと,細胞の再使用が可能なこと,および培地のpHの違いによって変換パターンが著しく変わることがわかった。
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