研究概要 |
平面配位をとるMe_4[14]aneS_4,Me_6[15]aneS_4Me_8[16]aneS_4などのクラウンチオエ-テル遷移金属錯体においてこれら大環状配位子がsyn立体配座をとる場合、2つの軸配位座は立体化学的環境が異なり環炭素原子側は混んでおり、一方反対側は空いている。従って嵩高さの違うπー酸性およびニオン性配位子はこれら軸配位座での識別が期待される。本研究ではまずtransーMo(N_2)_2(synーMe_8[16]aneS_4)とオレフィン、アセチレン、ヘテロクムレンなどπー酸との反応を行ない、生成するtransーMoL_2(synーMe_8[16]aneS_4)(L=RCH=CHR,RC CR)のMoーL結合の安定性が不飽和炭化水素の置換基の嵩高さに大きく依存することを見いだした。さらに興味あることにtransーMo(PhNCO)_2(synーMe_8[16]aneS_4)ではPhNCOの嵩高さの違うC=OとC=Nの2つのη^2,πー酸官能基が立体化学的に異なる軸配位座で完全に識別されることをX線構造解析で明らかにするとともに、この識別が電子的要因によらず立体因子に起因することをEHMOおよび分子力場計算から解明した。環炭素原子に囲まれた軸配位座でのcavityの大きさはクラウンチオエ-テルの環員数で調節が可能である。この環員数のの効果はcisーRuCl_2(L=Me_4[14]aneS_4,Me_6[15]aneS_4,Me_8[16]aneS_4)とNaBH_4との反応で生成するtransーRuH(Cl)(synーL)のアニオン性配位子の識別において顕著である。Me_4[14]aneS_4錯体ではヒドリド配位子は混んだ軸配位座に選択的に配位するのに対して、Me_4[14]aneS_4錯体では逆に空いた軸配位座を占める。環員数がさらに大きい錯体では立体化学的に異なる2つの軸配位座はヒドリドとCl配位子を識別し得ず2つの可能な幾何異性体の混合物として得られる。transーMo(S)_2(synーMe_8[16]aneS_4)の末端サルファイドのアルキル化やプロトン化においてもそれらの軸配位座での立体化学的環境の違いが完全に識別されて、空いた軸配位座側の末端サルファイドが選択的に反応してそれぞれチオレ-ト、末端サルファイド、チオエ-テルの3種の異なる硫黄配位子を持つtransー{Mo(SR)(S)(synーMe_8[16]aneS_4}^+(R=Me,CH_2Ph)およびtransー{Mo(S)F(synーMe_8[16]aneS_4)}^+{Mo_2(S)_2(μーS)(synーMe_8[16]aneS_4)_2}^<2+>を与える。後者はX線構造解析および電子スペクトルからS=Mo〓S〓Mo=S長共役系直線骨格を有することが判明した。
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