本研究では、マレ-半島に残された狩猟採集民セマン族の遺伝子を永久に保存すると供に、セマン族と他集団との系統関係を明らかにするための生物学的標識の検索を目的とした。 1989年10月にタイ南部タント地区において採材したタイセマンの血液試料を用いて以下の検索を行った。 1.細胞株の樹立 セマン族の細胞を組織培養の技術・ウイルスを用い株化し永久増殖系に移し、少なくとも細胞・遺伝子の形で消え行く民族を残すことを目指した。Bリンパ球を容易に不死化するEpsteinーBarrウイルス(EBV)をin vitroで感染させ、リンパ芽球細胞株14株を樹立しつつある。 2.ウイルス学的検索 ヒトT細胞指向性レトロウイルス(HTLVー1)の感染は古いタイプのモンゴロイドを特徴づけること、そのウイルスゲノムの変異から宿主の系統関係を論じられることを示してきた。本サンプルについてその血中抗体の有無を調べた。14検体については陰性の結果を得た。 3.遺伝標識の検索 ベッドイドを特徴づけることのできる血清タンパクであるオロソムコイド、αー2ーHSーGlycopr otein(AHSG)の遺伝子型を調べた。その結果小さいサンプル数にもかかわらず、ORM2*3が2例も見つかった。一方、AHSGについてはAHSG*2の頻度は比較的低かった。
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