研究概要 |
固体表面に局在して伝播する表面弾性波が,適当な条件下でKdV型の表面弾性波ソリトンを形成することを理論的に示し,固体中の伝導電子が電子ーフォノン相互作用を介して,この表面弾性波ソリトンをポテンシャルとして感知することを明らかにした。さらに表面弾性波ソリトンが,伝導電子に対し引力ポテンシャルとして作用する場合には,適当な条件の下で電子がソリトン中に束縛され,本来ソリトンのもつ安定性のためソリトンの運動に伴う定常的電子輸送機構が発現し,2次元準超伝導機構の可能性があることを初めて指摘した。また,電子輸送の基礎的問題と関連して,電気伝導と密接な対応をもつ熱伝導について,非可積な低次元非調和格子の熱伝導シミュレ-ションを行い,熱伝導度の温度依存性とフ-リエ則の第一原理からの導出に初めて成功した。以上の結果は大別して次の三項目にまとめることできる。 1.KdV型の表面弾性波ソリトン理論の定式化とその近似解 この場合,最も重要なことは,3次または4次の非調和項を考慮し,ブジネ型の非線形波動方程式を与える正常分散関係を示す弾性波モ-ドの選択である。本研究では,半無限の弾性基盤上に薄膜を蒸着した層状構造におけるラヴ波がその条件を満たすモ-ドであることを示した。 2.KdV型弾性波ソリトンによる新しい電子輸送機構の提案 伝導電子からみれば,ラヴ波フォノンが生成するKdV型弾性波ソリトンは電子のシュレディンガ-方程式に対するポテンシャル項を与える。引力の場合は,束縛電子が安定な定常電流を生ずる。 3.非可積な低次元非調和格子の熱伝導 電子輸送(電気伝導)と格子波によるエネルギ-輸送(熱伝導)とは密接に関連する。熱伝導現象におよぼす熱流の弾道成分評価を行い,フ-リエ則が成立する格子模型の構策を行った。
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