研究概要 |
力学的環境に対する生体組織の成長・変形による適応について,下記の項目について研究した. 1.骨の残留応力とそれを考慮した力学的再構築の数理モデル 家兎の脛骨・腓骨における残留応力を切断により開放し,ひずみゲ-ジを用いて観察した.家兎の体重による応力に相恵する有意な残留応力と,複雑な残留応力分布の存在を確かめた. 骨の再構築における付着と吸収による組織局所の体積変化と,それによる残留応力場の形成とを考慮した,力学的再構築の数理モデルを構成した.長管骨ならびに脛骨・腓骨系の事例を通じて,残留応力測定実験との比較により,構成したモデルの現象記述能力を検証した. 2.脊椎症の実験モデルと過負荷による椎間板変性 マウスの椎体に損傷を外科的に導入し,脛部脊椎症の実験モデルを作成した.誘起された脛部脊椎の力学的不安定性は,椎間板の変性を促進し,それが長期にわたる場合には,脛部脊椎症をもたらすに至った. また,家兎の脛部脊椎に,アテト-ゼ脳性麻痺を模擬した反復的伸展屈曲運動を強制することで,椎間板の変性が促進されることを確認し,脊椎症の病因のひとつとして,力学的過負荷が重要であることを示した. 3.大動脈壁および膝蓋腱の力学的適応反応 ラットに腎性高血不を人工的にもたらした結果,高血圧という力学的負荷に対し血管壁では,応力を一定に保つような壁厚肥大が生じ,続いて弾性係数を元に戻すという適応反応が存在することがわかった. また,家兎の膝蓋腱の応力を完全に遮蔽した場合,正常群に比べ弾性係数や強度の著しい低下が観察された.再度負荷を加えると,弾性係数や強度の回復と断面積増加とにより,完全にではないが特性が回復するという,速やかな適応反応が確認された.
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