研究概要 |
現在,天然ガスから豊富かつ安価に供給されているメタノ-ルは,いわゆるC_1化学原料の一つであり,多様な有効利用の可能性が指摘されている。本研究においては,メタノ-ルのみを原料として一段で酢酸を生成させるという独自の着想に基づき,新規な機能をもつ触媒を探索した。その結果,遷移金属ー典型金属の直接結合をもつ異核混合クラスタ-化合物である[Ru(SnCl_3)_5L]^<nー>(L=MeCN,PPh_3,n=3;SnCl_3^ー,n=4)が有効な触媒として見い出された。触媒活性のLによる序列はPPh_3>MeCN>>SnCl_3^ーであり(65℃),中性配位子の存在が重要と考えられる。反応中,液相に少量のギ酸メチルが定常的に観測され,場合により痕跡量のホルムアルデヒドジメチルアセタ-ル(メチラ-ル)も検出された。このことから,反応はメタノ-ル→ホルムアルデヒド(脱水素),ホルムアルデヒド→ギ酸メチル(ティチェンコ型の二量化),ギ酸メチル→酢酸(異性化)の逐次過程で起こるものと推定される。実際,ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒド),ギ酸メチルのいずれを基質として与えても,酢酸(酢酸メチル)が生成した。反応をCO雰囲気下で行なったところ反応速度は約1/4に低下し,触媒活性種(配位不飽和錯体)へのCO配位により阻害効果と推定される(メタノ-ルの分解により反応中微量のCOが共存する可能性があるが,この結果から本反応の経路としてメタノ-ルへのCO挿入により酢酸生成は考えにくい)。また,遊離のCl^ーイオンの添加によりギ酸メチルが主生成物となったこと,ならびに[Ru(SnCl_3)_5(PPh_3)]^<3ー>によるギ酸メチルの酢酸への異性化反応が遊離のPPh_3の添加により抑制されたことから,ギ酸メチルの活性化がソフトなルイス酸であるRu(II)ソフトな塩基であるCーH結合部分と相互作用)およびハ-ドなルイス酸であるSn(II)(ハ-ドな塩基である酸素原子と相互作用)との多中心的相互作用より起こることが裏付けられた。
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