研究概要 |
人間の食嗜好の形成には多くの要因が関与しているが,とりわけ離乳期以後における,いわゆる「餌付け」に相当するプロセスが非常に重要な意義を有していることは広く知られている事実である。「餌付け」はいわば各個体における食品の認知・摂食行為の基本となる学習プロセスであり,具体的には,感覚器での応答レベルと各食品に含まれる香味成分を中心とする情報物質〔特に「刷り込み」機能特性を有する"餌付け成分"〕との基本的な対応関係を学習し,各個体における食物選別システムを構築することにある。このような視座から,本年度は特に,辛味成分であるカプサイシンを“餌付け成分"として選び,幼ラットに対する餌付け効果を調べた。また,「餌付け」プロセス解明のための1モデルとして,草食動物として知られているモルモットに対する「牛生肉」の餌付け効果についても併せて検討した。離乳期直後のウイスタ-系雄ラットに基本飼料を投与し予備飼育後,対照群と試験群の2群に分け,前者には基本飼料を,後者には1〜50ppmのカプサイシンを添加した基本飼料を投与し一定期間飼育した。餌付け期間終了後,嗜好性テストを行い,餌付け効果の判定を行った。テストは各個体に一定濃度のカプサイシンを含む飼料と全く含まない飼料とを同時に与え,一定時間内におけるそれぞれの摂取量を測定することにより行った。その結果,個体差はかなりあるものゝ試験群は対照群に比較して,カプサイシン含有飼料を多く摂取する傾向があることが認められた。また,離乳期直後のモルモットを2群に分け,基本飼料投与下に,対照群に対しては緑葉(小松菜)を,試験群に対しては牛生肉を与えて餌付けを行った。餌付け期間終了後,嗜好性テストを行った結果,試験群は対照群に比較して生牛肉をより好むことが明らかになり,この両群間の嗜好性の差異は統計学的にも有意であることが確認された。
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