研究概要 |
JC virusがヒト中枢神経系に選択的に感染する一方,実験動物に腫瘍を誘発する事に着目し,まずJC virusによって生ずるhamster medulloblastomaの発生母地についてin situ hybridization法で検索し,次にJC virusの神経親和性について検索し,ついで実験動物でのJC virus抗原と癌抑制遺伝子産物との関連性について調べ,さらにヒト脳腫瘧の発生に関与しているか否かをウイルスの特異genomeを増幅して検討することを試み以下の結果が得られた: 1.JC virus T抗原mRNAを生直後にJC virusを接種したhamster brainで調べると,外顆粒層から内顆粒層へ移動している細胞にJC virus T mRNAをin situ hybridization法にて検出できた. 2.JC virus promoterーenhancer領域をpSVOCATのchloramphennicol acetyltransferase(CAT)gene上流に組み込んだpJCSCATを作成しヒトNeuroblastoma cell,GFAP陽性glioma cell,及びHela cellにtransfectしてCAT assayを行った.その結果JC virus enhancerはneuroblastoma cellにて最も活性化される事が判明した. 3.JC virusT抗原が癌抑制遺伝子RB gene及びp53遺伝子の産物と結合するか否かをJC virus誘発Hamster脳腫瘧細胞株Iー23を用いた免疫沈降法にて検索した.その結果JC virus T抗原はRB蛋白ともp53蛋白とも結合する事が判明した.従ってJC virusによる細胞腫瘍化には癌抑制遺伝子産物の不活化が重要である事が初めて示された.(上記1,2の内容は第11回国際神経病理学会のシンポジウムにて発表しProceedingsに掲載されている). 4.上記の実験を踏まえてヒト脳腫瘍(medulloblastoma 3例,PNET 1例のFormalin固定Paraffin切片)についてHamster medulloblastomaを陽性controlとし,ヒト新生児小脳を陰性controlとしてJC virus DNAの存在についてPCR法にて検索した.Primer領域として5箇所を選んで調べたがT領域のZinc finger domainはヒト脳腫瘍には検出できなかった.RB domainは正常及び腫瘍の両方に検出された.さらに多くの腫瘍の生組織,細胞株等を用いて検索をつずける事が必要と考えられた.(この結果の一部はIVth International Symposium on Pediatric NeuroーOncology(Nov,1991.Tokyo)において発表した).
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