研究概要 |
アルコールの代謝産物アセトアルデヒドがトリプトファンと総合してテトラヒドロ-β-カルボリン-3-カルボン酸(MTCA及びTCCAと略)を生成し,これがアルコール依存形成に関与するか否かの論議がある.一方,アセトアルデヒドとトリプタミンが縮合後酸化されて生成するβ-カルボリン化合物(BC)は,MAOの阻害作用をもち,振戦けいれん作用を有するのでアルコールの離脱症状に関与するのではないかとの論議があるが未だ結論が得られていない. 我々は,まず,抽出方法及び定量方法を確立した.(1)固相抽出THBCには陽イオン交換系のSCXが,BCにはPRSが最適であった.(2)高速液クロには,蛍光検出器が感度が高く,移動相は31%メタノールが適当であった.(3)サーモスプレイ法をとり入れたLC/MSにより質量がわかった.(4)測定の結果,各種アルコール飲料中にTHBC及びBCは含まれていた. 次に,飲酒がMTCAのヒト尿中排泄に及ぼす影響について検討した.一夜絶食の後,7人の被験者に0.4g/kgの純粋エタノールを10分間で経口摂取させ,一方,8人に対照として水を飲ませた.開始前に排尿させ,実験開始の1,2,3,4時間後に採尿・採血した.血中エタノール及びアセトアルデヒド濃度をガスクロにて測定した.尿中MTCAの排泄量は実験開始前にはTCCAより5〜15倍高かった.対照群では4時間の間にTCCA,MTCA共に減少した.これに対しエタノール負荷群では,MTCAは1時間後に有意に上昇したが,TCCAは対照群に比し有意に低い値が続いた.対照群では,MTCAのTCCAに対する比は4時間の間ほとんど変わらなかったが,エノタール群では2時間後に有意の上昇を認め,4時間後においても元に戻らなかった.血中アセトアルデヒド濃度とMTCAの尿中排泄量には相関関係はなかった.しかしながら,今回の研究によってヒトのMTCAの生成に飲酒が影響を及ぼす1つの要因である事を初めて示した.
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