研究概要 |
脳アミロイドアンギオパチーは脳の血管壁にアミロイドが沈着する病態であり,一般にCAAと略されている。本研究ではCAA一般の病理発生機序を追求すると同時に,β蛋白とシスタチンCの共存型CAAのアミロイド蛋白の化学的性状を解明することを目指した。研究成果の要約は以下のごとくである。 1.家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は遺伝性全身性アミロイドーシスの一型である。本疾患のアミロイド構成蛋白は変異トランスサイレンであり,本蛋白がアミロイド前駆体として流血中に存在することはよく知られている。今回FAP患者の中枢神経系を免疫組織化学的に検索し,本疾患では脳脊髄の髄膜血管にトランスサイレチン型CAAが高頻度に見出された。また脳の髄膜血管からアミロイド細線維を分離し化学的に分析することにより,このアミロイド構成蛋白は血清中の変異トランスサレイチンと同一であることが確認された。 2.CAAが前景に立つアルツハイマー病の中枢神経系を免疫組織化学的に検索し,脳のみでなく脊髄においてもくも膜へのβ蛋白の沈着とβ蛋白型CAAが観察された。 3.Iceland型CAAのアミロイド構成蛋白はN末端から68番目のロイシンがグルタミンに置換した変異シスタチンCであり,このアミノ酸異常に対応して遺伝子レベルではコドン68の第二塩基がthymidine(T)からadenine(A)に変化していることが知られている。そこでPCR法で増幅したDNAを用いて,この塩基変異を指標とする本疾患の簡便な遺伝子診断法を確立した。 4.免疫組織化学的にβ蛋白とシスタチンCの共存が証明されたCAA症例の脳血管アミロイドの化学的分析では,アミロイドはβ蛋白のみから構成されており,正常のアミノ酸配列を示すシスタチンCは非アミロイド成分であった。従って本病態はシスタチンCのアミノ酸変異を伴うIceland型CAAとは全く異なる疾患であることが判明した。
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