研究概要 |
Glucose(Glc)のanalogueである2ーdeoxyglucose(DG)ラットに静注し、2,4分後に瞬間凍結した神経組織から凍結乾燥切片を調製し、顕微鏡下で乾燥切片より脊髄前角とその近傍の白質,小脳の分子,顆粒,白質の3層,及び脊髄運動ニュ-ロン細胞体とその近傍のニュ-ロピル,脊髄後根神経節細胞,小脳のPurkinje細胞の細胞体を切り出して試料とした。試料を高感度水晶糸バランスを用いて秤量した後,既に開発した超微量測定法を用いて,GlcとDGの燐酸化物2ーdeoxyglucose 6ーphosphate(DG6P)とglucose 6ーphsophate(G6P)を測定した。また新理論を工夫して,神経細胞の活動度を表す指標であるGlcの利用速度(GuR, Glucose Utilization Rate[μmol/g wet wt./min])と,DGとGlcの取り込み活性を表すDV(Distribution Volume [ml/g]:細胞内濃度[mol/g]/動脈血漿内濃度[mol/ml]比)を求めた。脊髄前角のGURは1.15で,近傍の白質(0.438)の3倍であった。 GURは小脳の分子層(主に樹状突起,軸索,シナプスを含む,1.49)や顆粒層(主に神経細胞体を含む,1.70)が小脳白質(0.364)よりも4倍以上高いので,神経細胞はその活動のために,グリア細胞の少なくとも3倍のエネルギ-を費やしていると思われる。運動ニュ-ロン細胞体のGUR(2.12)は,周囲のニュ-ロピル(0.918)の2倍以上であるが,GlcのDVは細胞体(0.188)とニュ-ロピル(0.150)であまり変わらない。この結果は,細胞体は樹状突起や軸索部分よりも活発に活動しており,活動のためのエネルギ-消費はGlcの取り込みよりも,その代謝活性の高低により制御されていると考えられる。分析した3種のニュ-ロンのGlc濃度は取り込まれたDG濃度にほぼ比例し,細胞一個当りのGlcとDG濃度は広い範囲にばらついており,各細胞が固有の取り込み活性を示していた。取り込み活性を表すGlcとDGのDVもほぼ並行しており,28個(4匹のラットから各7個)のニュ-ロンのDGの平均DV値は,後根神経節細胞(0.899)>Purkinje細胞(0.697)>運動ニュ-ロン(0.642)〓その周囲のニュ-ロピル(0.600)であった。同じくGUR平均値は,運動ニュ-ロン(2.04)>Purkinje細胞(1.61)>後根神経節細胞(1.15)>運動ニュ-ロン近傍のニュ-ロピル(1.02)であった。平静な状態に置かれたラットの中枢神経系内では,運動ニュ-ロンは最も活発に活動していた。
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