研究概要 |
意識障害者357例に対し聴性脳幹反応(ABR)を記録した。このうち温度眼振反応は92例に,112例に脳波(EEG)の観察を行った。 1.温度眼振反応 温度眼振反応には1.正常反応(急速相と緩徐相),2.眼球偏倚と緩徐な立ち直り,3.眼球偏倚のみ,4.無反応の4タイプが認められた。経時的に温度眼振反応を見ると正常反応から急に無反応になったり反応が急激に変化し脳幹機能を直接反映しているとは考えにくかった。 2.ABRと予後の関係 初回ABRのI-V波間潜時が正常であった201例中109例が回復し92例は死亡した。I波のみまたは無反応であった104例は全例死亡した。最終測定結果と予後の関係はI-V波間潜時が正常であった152例中41例が死亡した。また,初期にI波〜V波が認められていても最終的に無反応に移行した52例は死亡した。終始V波の波形が保たれていた例の予後は良好であった。このことは脳幹の微細な変化を観察するにはABRがすぐれており直接脳幹の機能を反映しているものと考えられた。 3.ABRと脳波(EEG)の関係 脳波(EEG)に活動が認められたものは38例,平坦化していたものは74例であった。EEGに活動が認められた症例のABRには全例I波〜V波までの波形が認められた。EEGが平坦化した初期のABRは40例がI波のみあるいは無反応で,31例にはI波からV波までの波が認められた。I-V波間潜時も28例が正常範囲内であった。しかし,V波までの波形が認められた症例も経過とともに無反応となり死亡した。このことは,上位中枢から活動が停止し下部へと変化が進み最終的に脳幹部の活動が消失するものと考えられた。以上の結果から,脳死を判定する際に聴性脳幹反応による脳幹機能の把握が重要であると考えられた。
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