研究概要 |
口常臨床で用いられる嗅覚検査は、被検者の主観的判断に依存しているのが現状であり、ニオイ刺激に対する生体反応を客観的に捉えて検査に応用した他嗅覚検査は現在のところ確立されたものはない。 当該年度では、ニオイ刺激中の脳波を記録して周波数分析を行い、脳波を空間的・定量的に表示したトポグラフィ-(二次元脳電図)および有意差検定脳電図(significance probability mapping,SPM)を用いて脳波変動を客観的に捉え検討を行った。また被検者のニオイ自覚の有無との関係について検討した。 対象は嗅覚障害のない健康成人10名とした。刺激は香ばしいニオイとしてT&Tオルファクトメ-タ(第一薬品)のB(methyl cyclopenteno one )、不快なニオイとしてE(scatol)の2種類とし、濃度はそれぞれBO,B2,B4およびE0,E2,E4の3段階とした(ただし、右の数値は濃度を意味し数値が大になると濃度が濃くなる)。 結果は臭素B0で刺激したとき後頭部でσ帯域、中心部でθ帯域の等価電位の減少が観察された。また刺激濃度を上昇させても脳波変動は同程度であった。臭素E0で刺激したときは前頭部・側頭部・後頭部でα帯域の増大が観察された。濃度別の脳波変動は臭素Bと同様に特に変化を認めなかった。ニオイを自覚した5名と自覚しなかった5名とを刺激前と刺激中の脳波変動をSPMで検討すると、前者ではθ帯域の変化が有意であったが後者では有意差を認めなかった。 以上からニオイ刺激に対する脳波変動は香ばしいニオイと不快なニオイでその様相が異なり、またニオイの自覚と関連することが明らかとなった。しかしニオイの濃度変化に対しては特徴的な所見が得られず、他覚的嗅覚検査として臨床応用する場合、定量的診断の限界があることを示唆していると考えた。
|