分離した基質小胞を生活歯髄切断時に応用した場合の切断面に植移された基質小胞の動態をとらえるため、以下の基礎実験を行った。 第1番目に、基質小胞を任意の時に任意の量収穫する系を確立するための実験を行った。ラットの根尖部歯髄を酵素処理し、歯髄細胞を分離したのち、継代培養の可能となった細胞系を樹立した。この細胞系は、酵素処理ののち分画遠心を行うと、生体内でみられる場合と形態的に同一の基質小胞を得ることができる。さらに、この基質小胞画分を有機リン酸を含む培地で培養すると、培養3日目より基質小胞に接して結晶形成の生じることも明らかとなった。以上の結果から、使用したラット歯髄細胞系は基質小胞を産生し、また、この基質小胞は石灰化能を有していることになる。この細胞系を使えば、希望する量の基質小胞を得ることが可能であるので、今後、基質小胞の移植実験に応用できる。 第2番目に、歯髄を器官培養する培合の培養条件を決定するための実験を行った。ラットの切歯から無菌的に歯髄を取り出したのち、長さ約1mmに切断した。この歯髄小片を、レンズペ-パ-をのせた金網上にのせ、DMEM培地(10%血清添加)中で5%CO_2下にて培養した。1、3、5日後、通法により組織標本を作製後、光顕、電顕的に観察した。1日目では、一部正常な細胞はみられたが、大多数の細胞は核の濃縮、細胞質内にミエリン様構造物の出現等、壊死変化を呈していた。3日、5日と培養時間が長くなるに従い壊死変化は強くなった。今後は、器官培養時、添加する血清濃度を上げるなど培地の条件、及びO_2濃度を上げるなど培養器の条件を変え、最低3日目までは、正常な組織像の得られる条件を検討する必要性が判明した。このことによって、器官培養された歯髄組織内における移植基質小胞の動態をとらえることが可能になると思われる。
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