研究概要 |
本研究では薬物の輸送蛋白として役割を果たしている血清アルブミン(HSA)及びα_1ー酸性糖蛋白質(AGP)分子上の薬物結合サイトの性質を明らかにする目的で,HSAならびにAGPに特異的に結合する蛍光プロ-ブを開発し,薬物結合サイトの微環境を調べた結果,以下の知見を得た. 1)薬物とAGPとの迎合様式を解明するため,種々のスペクトル法や熱力学的検討,さらに定量的構造活性相関解析などを行なった結果,その結合にはペプチド部分が関与すること,また,その推進力として疎水性相互作用がかかわっていること,さらに,シアル酸は塩基性薬物との静電的相互作用に対して何らかの役割を果たしていることが示唆された. 2)HAS及びAGP分子上の薬物結合サイトの種類を明らかにするため,既知,新合成品を含めた,数十種類のプロ-ブを用いて,主に蛍光ならびにCDスペクトル法により検討したところ,巨視的にみた場合,従来の仮説通り,HSAには3種類,AGPには1つの薬物結合サイトが存在することが確かめられた.しかし,微視的にみた場合,各々のサイトは複数の小サイトが重なり合って複合的に形成された領域であることが判明した. 3)HSAならびにAGP分子上の薬物結合サイトの疎水性を見積もったところ,HSA分子上の疎水性はサイトII>サイトI>サイトIIIの順であり,AGPの場合は酸性薬物結合サイトの疎水性が塩基性薬物結合サイトのそれよりも大きいものと推察された.さらに,競合剤の分子サイズと阻害率の関係から,薬物結合サイトの至適サイズを算出した結果,HSA上の3つのサイトの深さは,それぞれ異なり,AGPの場合も,酸性薬物と塩基性薬物結合サイトで若干異なることが示唆された.また,微粘性評価法という新たな解析法を用いてHSA分子上の薬物結合サイトの幅を調べたところ,サイトIが他のサイトに比べて揺らぎが小さく,AGPにおいては,酸性薬物結合サイトの方が塩基性薬物結合サイトより揺らぎやすいことが示唆された.
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