研究概要 |
(1)磁性物質の存在する組織の確定:磁性微粒子は鮭頭部のいたるところから抽出されたが、特に脳の両側に位置する前耳骨付近から多量に見出され、ここから微粒子に囲まれた小器官も見出されている。今回の研究により、その組織が三半規管であることが確定した。見出された磁性微粒子を電子線回析やEDX解析法を用いて分析を行った結果、主成分は鉄とセリュームで、物質はFe_3O_4,Fe_2O_3,FeCe_2O_4,FeOOHなどと推定された。平衡感覚器官である三半規管に多量の磁性微粒子が存在し、かつ規管端部が神経で脳に直接接続されていることを考慮すると、ここに磁性物質が存在したことは、磁気センサによる回遊説に根拠を与えるものと考えられる。 (2)卵からの磁性物質の発見:鉄染色法により、未授精卵にも磁性微粒子が存在することを確認した。さらに溶解法により、卵から成魚と同様な磁性微粒子の集合体を見出した。分析の結果、これも成魚と同じくFe_2O_3,FeCe_2O_4,FeOOHなどと推定された。これは磁気センサが、遺伝的に受け継がれているものとした注目される。この微粒子群が、成長とともにどの様に磁気センサとして構成されて行くか検討することが、今後の課題である。 (3)磁気センサモデルの動作の模擬実験と計算機シミュレーション:先に見出された磁気センサと思われる小器官を、球状永久磁石を楕円状に配列した装置で模擬し、外部磁界による磁石の動きを定性的に検討した。次に磁性微粒子が楕円状の器官を囲んでいる組織を、磁気センサとみなしてモデル化し、これに磁界が加わった場合の各磁性微粒子の動きを、有限要素法により求めた。この結果、磁界の方向が変わるに従って、最大トルクを受ける微粒子の位置が変化することを見出した。この器官と機械電気変換機、情報伝達系が組み合わされば、磁気センサとして有効であると考えられる。
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