研究概要 |
本研究の目標は、中間エネルギー領域の核子入射核反応で特徴的に観測される前平衡反応過程に核内核子の短距離相関がどのような影響を与えるかを解析し、明らかにすることである。 まず、前平衡反応過程の中で、入射核子が核内核子と少数回の2体散乱を繰り返し放出される多段階直接(MSB)反応に与える短距離相関の効果を調べることにした。研究代表者等が開発してきた半古典歪曲波(SCDW)模型に必要な標的核のWigner分布関数の導出に、Gaydarov氏らのグループによって開発された短距離相関を考慮した計算手法を組み込み、MSDで放出される核子の角度分布、特に後方角放出を解析した。まず、Jastrowタイプの短距離相関を導入したNatural Orbitの手法で求めた一体密度行列から標的核のWigner分布関数を計算した。入射エネルギー150,160,186,392MeVの^<40>Ca(p, p'x)反応を解析対象とした。短距離相関を考慮したWigner分布関数を用いたSCDW断面積は、以前のWoods-Saxson型の平均場に対するWigner分布関数を用いた結果に比べ、後方角での断面積が増加し、実験値との一致が改善することがわかった。前方角への放出には殆ど効果がないことも明らかになった。Wigner分布関数を用いて算出される核子運動量分布を両者で比較すると、短距離相関を考慮した場合は、2fm^<-1>以上の高運動量成分が増加し、その結果、入射核子と高運動量核内核子との2体散乱で後方角への放出割合が増加することが分かった。その後、他の計算模型や手法を使い、Wigner分布関数を導出して、SCDW計算に組み込み、実験データの解析を行った。Coherent density fluctuation model (CDFM)による結果が^<12>C,^<40>Ca,^<90>Zrに対する(p, p'x)反応の実験データを最も良好に再現できることがわかった。このことは、核内短距離相関より長距離相関の方がより影響をもつことを示唆しており、Generating coordinate法に基づいてSCDW模型の再定式化を行った。
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