研究概要 |
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)の毒性発現に種差があることは既に知られている。この種差の原因としてまず第一にDEHPの代謝の種差を見当した。その結果、リパーゼの活性の種差(キネティクスの種差)が大きく、マウスとマーモセットの間には150倍以上の差が認められた。今回はDEHPのダイナミクスの種差を明らかにするために、DEHPの代謝物のMEHPが配位するPPARαの標的遺伝であるミトコンドリアのmedium chain acylCoA dehydrogenase(MCAD)等とペルオキシゾームのperoxisomalthiolase(PT)等のDEHP投与による誘導を検討した。 1.8週齢の雄CD-1マウスとSDラットを、コントロール群とDEHP2.5mmol/kgb.w.投与群に分け2週間経口投与した。3ヶ月齢の雄マーモセットは、コントロール、DEHP0.25,1.25,6.25mmol/kgb.w.投与群に分け、15ヶ月経口投与した。これらの動物を解剖後、肝臓を用いてRNA単離、Oligo(dT)_<12-18>プライマーでcDNA合成した。プライマーは、マウスMCAD GI6680617,ラットMCAD GI202688,マウスPT GI18700003,ラットPT GI6978428の塩基配列を参考に、またマーモセットに関してはマウスとヒトの配列の共通部分からmRNAの一部分の配列を読み取り作成した。 2.マウス、ラットではMCADの誘導が見られたが、マーモセットでは1.25,6.25mmol/kgb.w.で減少傾向が見られた。これらの結果はウェスタンブロット法(蛋白の発現量)での結果と一致する傾向が見られた。 3.PTはラットで最も強く誘導され、マウスでも誘導が見られたが、マーモセットでは1.25,6.25mmol/kgb.w.で減少傾向が見られた。しかしウェスタンブロット法で蛋白の発現をみると、PTの誘導はラットとマウスの間に大差なかった。 DEHPのカイネティクスより、PPARα標的遺伝子発現の誘導はマウス>ラット>マーモセットであるとの仮説をたてて実験を行った。しかし、実際はこのような単純な仮説だけでは説明できず、DEHPのダイナミクスの種差にはカイネティクスの種差の関与もあるが、これだけでは説明できないダイナミクスの種差もみられることが判明した。
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