へき開再成長法、すなわち、GaAs(100)基板を真空中でへき開して露出した(110)面上にGaAsを分子線エピタキシーにより再成長する方法を用いて、超平坦界面を持つ理想的な2次元薄膜を作製・評価し、高品質のT型量子細線や細線レーザーを代表例とする様々なナノ構造の作製に応用した。(110)断面上のMBE成長は、約490度という低い成長温度や高い砒素圧が要求され、そのままでは薄膜の表面モフォロジーが悪く、それがかつてのT型量子細線の品質を制限していた。本研究では、その凸凹の多い(110)表面が、600度以上の温度で10分間程度の成長中断アニールを施すと著しく平坦化されることを詳しく調べた。外国人特別研究員の呉(オウ)博士には、へき開再成長GaAs(110)薄膜のGaAs積層量を整数原子層から連続的にずらしていったときの、成長中断後の表面モフォロジーの原子間力顕微鏡(AFM)計測、それをAlGaAsバリアでカバーして得られる量子井戸構造のPLイメージ測定を、推進していただいた。従来は、高々数ミクロン角程度の領域の測定しか出来なかったが、今回、約3ミリメートルにわたる広い領域に対して測定を行うことができ、表面平坦化のドライビングフォース、原子ステップパターンの形成モデル、ヘテロ界面の凹凸が無くなった量子井戸構造のPL線幅の原因、などに関する重要な知見が得られた。本実験結果をもとに、GaAs(110)表面上でのGa原子とAs原子の表面ポテンシャルの第一原理計算の共同研究を展開することができ、(110)表面上では(001)表面に比べてポテンシャルバリアが低くて原子拡散が容易になっていることや、Gaの運動が面内で異方的になっていることなどが解り、上記の実験結果や原子ステップパターン形成モデルを支持する結果が得られた。
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