昨年度は、主に紐型動物(ヒモムシ)と扁形動物(ヒラムシ)におけるフグ毒(TTX)の組織内微細分布について検討した。本年度は、その研究の成果を論文に纏めるとともに、ブチイモリおよびツムギハゼを対象として、昨年度と同様の検討を行った。 北米産ブチイモリの未成熟個体(red eft)と成熟個体、ならびに沖縄県西表島産ツムギハゼにつき、既報の方法に基づいて薄切切片を作成し、免疫化学染色を施した後、光学顕微鏡下で観察した。その結果、まずブチイモリの場合、皮膚では組織構造、組織内TTX微細分布ともにred eftと成熟個体の間で顕著な相違がみられた。特に、上皮組織に存在する腺は、red eftの場合、ほぼ全てがTTX陰性の漿液腺タイプ1で、一部TTX陰性の粘液腺であったのに対し、成熟個体の場合は、TTX陽性(褐色)の粘液腺と漿液腺タイプ2、ならびにTTX陰性の漿液腺タイプ1で構成されていた。結合組織、肝臓組織、および精巣に関しては、red eftと成熟個体の間に顕著な相違はみられず、組織全体で一様にTTX陽性反応が観察された。 一方、ツムギハゼでは、皮膚組織の表皮層を構成する基底、マルピギアン、およびスッチホルムの各細胞において、瀰漫性のTTX陽性反応がみられた。卵巣の場合、同一個体でも様々な成熟段階の卵母細胞が観察されたが、TTXの分布は成熟段階毎に異なっていた。即ち、周辺仁期初期の卵母細胞は、いずれもTTX陰性であったが、周辺仁期後期のものになると、核内にのみTTX陽性反応が現れ、さらに卵黄胞期では、核に加え卵黄胞にもTTX陽性反応が認められた。他方、退行卵では、食細胞化して肥大した濾胞細胞に強いTTX陽性反応がみられた。肝組織の場合、毒性があるにもかかわらず、通常の染色手順ではTTX陽性反応を示さなかったが、エッチングを行って抗原性を賦活すると、一様に陽性反応を呈した。
|