研究概要 |
DEHPのダイナミクスの種差に関する研究-特にPPARαを介したシグナル伝達の種差の解明を行った。マウス、ラット、マーモセットに0mmol/kg、1mmol/kg、2mmol/kgのDEHPを経口投与し、肝を採取した。その一部から速やかにtotalRNAを抽出し、定量リアルタイムPCR法で、PPARα.およびその標的遺伝子発現(ペルオキシゾーム系酵素とミトコンドリア系酵素)を解析した。残りの組織からwestern blot分析用のサンプルを調整し、PPARα標的遺伝子産物の定量を行った。 その結果、以下の点が明らかとなった。 1)PPARα-mPNAはマウス、ラット肝において増加傾向ではあったが、有意差はなかった。マーモセット肝においては全く増加を示さなかった。 2)DEHPはマウス、ラット肝のミトコンドリア酵素(MCAD, VLCAD、いずれも脂肪酸のβ酸化に係る酵素)を若干誘導したが、マーモセット肝では影響は観察されなかった。 3)DEHPはマウス、ラット肝のペルオキシゾーム酵素(PT, PHいずれも脂肪酸のβ酸化に係る酵素)を誘導し、その程度はラットの方がマウスより強かった。マーモセット肝ではこれらの酵素の誘導は観察されなかった。 初年度の研究において、DEHPのキネティクスにおおきな影響を与えるリパーゼの活性は、マウス>ラット>マーモセットであることを示した。この結果から、PPARαに配位するDEHPのモノエステル体(MEHP)の生成量は、マウス>ラット>マーモセットであり、PPARα標的遺伝子発現もこのような順位で誘導されることを想定していたが、実際はラット>マウスであった。これらの結果は、DEHPのキネティクスのみならずダイナミクスにも種差があり、両者は必ずしも同様には観察されないことを示唆する。今後、このダイナミクスの種差の機序を解明することが、DEHPの正しいリスク評価につながる。
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