研究概要 |
本研究では,各種の外傷性ストレスが中枢神経系に及ぼす影響を解明するため,外因死における中枢神経系のストレス反応を免疫組織化学的・生化学的指標を用いて多角的に分析した.その結果,中脳黒質神経構造のユビキチン化が死因と深く関係していることが明らかにされた. すなわち,ユビキチン(Ub)が各種ストレスに対して急速に反応することに着目し,種々の外因死,計328例(焼死,窒息,溺死,頭部損傷,胸・腹部損傷,覚せい剤中毒,急性心筋梗塞など)について,中脳黒質神経細胞核内封入体型Ub陽性細胞の出現率(Ub-index)および単位面積当たりの大脳脚軸索変性Ub陽性顆粒の占有面積(Ub-area)をコンピューター画像解析装置にて定量化した。その基礎的データを基盤として各種死因との関係を検討したところ,大脳脚Ub-areaは絞頸および火災死で有意な高値,覚せい剤中毒死では有意な低値を示した.損傷死のうち頭部外傷による即死例が他の鈍器損傷より有意な低値,鋭器による頸部や四肢の損傷が胸部損傷より有意な高値を示した.封入体型Ub-indexは,鈍器損傷では腰背・腹部外傷が顕著な高値を示し,重傷度と逆相関した.鋭器損傷では心膜血腫合併胸部損傷が胸部損傷群および心筋梗塞に比べて有意な高値を示した.びまん性型Ub-indexは,他の外因死と比べて溺死が顕著な高値を示し,覚せい剤検出例では血中メタンフェタミン濃度との間に相関が認められた.中脳水道灰白質(痛み中枢)の神経細胞核内Ub陽性率に関しては,火災死群が有意な高値を示した.各指標は死因あるいは生存時間と強く相関し,年齢,性別,死後経過時間とは無関係であった.以上のことから,上記の定量形態学的分析結果は外因性ストレスの強度を反映しているものと考えられた.
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