研究概要 |
日本付近にまで接近する台風の多くは中緯度擾乱の影響を受けることで、温帯低気圧化(温低化)の過程にある。本研究は、その「台風の温帯低気圧化」の際に生じる複雑な擾乱間の相互作用を定量化することを目的とする。事例として台風9918号の温低化事例を選び、メソ気象モデルPSU/NCARMM5を用いて再現実験を行った。これによる高精度な再現場を用いて、渦位部分的変換法(piecewise potential vorticity inversion)により、温低化時の擾乱(渦位偏差)間の相互作用を定量化した。 本研究によって、中緯度帯に達した台風の強度変化に、台風上層の吹き出しの雲内で発達する負渦位偏差(低渦位)が重要な役割を果たすことが明らかとなった。この負渦位偏差は、急減衰期には、中心気圧を弱めるように作用していたが、再発達期には、逆に中心気圧を強めるように作用していた。急減衰期の台風直上には対流活動に伴い負渦位偏差が卓越することで、下層の正渦位偏差は背の低い構造となり、台風は強制的に弱められた。一方で、再発達期になると、台風上層にはトラフに伴う正渦位偏差が卓越するようになり、順圧的構造へと変化した。この際には、上層の負渦位偏差は、ジェットストリークの形成に貢献し、一転して、台風の再発達に不可欠な存在となっていた。以上の結果は、世界的に見ても、これまでにない新しい知見であると言える。 本研究で得られた研究成果を、23rd General Assembly of the International Union of Geodesy and Geophysics (2003年7月,札幌)や10th Conference on Mesoscale Processes (2003年6月,Portland, Oregon)の国際会議や国内学会等で発表し、現在、米国学術雑誌(Journal of the Atmospheric Sciences)に投稿中である。
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