研究概要 |
本年度は,人間の視覚情報処理における視覚的注意の制御メカニズムを解明するために,主に心理物理的実験手法を用いて研究を行なった。本研究は,特に視覚場面の持つ文脈情報が,視覚的注意の制御にどのような影響を与えるのかに焦点を当てた。 これまでの研究では,場面の文脈情報が注意の制御を効率化するメカニズムに関しては,文脈情報を実験的に操作することが難しかったため、ほとんど明らかになっていなかった。そこで,本研究では,文脈情報として場面内の統計的情報を観察者に潜在的に学習させる潜在学習パラダイムと,視覚的注意の時空間的分布を測定するためのプローブ検出パラダイムを巧妙に組み合わせることによって,この文脈情報による視覚的注意の効率化のメカニズムを検討した。 その結果,文脈情報による視覚的注意の誘導は,場面内の重要な位置の情報を促進するメカニズムと,不必要な情報を抑制するメカニズムの二つが強調することによって実現されていることが明らかになった。また,この文脈よる視覚的注意の誘導は,刺激呈示後の極めて早い時間帯に生じていることが明らかになった。これらの知見は,今後さらに文脈情報の脳内メカニズムを検討するためには重要であり,国内外の学会で発表され高い評価を得た。特に,第22回日本基礎心理学会では優秀発表賞を受賞した。 また,この文脈による注意制御のメカニズムは,ボトムアップ的な注意制御のメカニズムである注意の捕捉と複雑に交互作用することが示されており,現在視覚情報処理の時間軸にそって,これらの複数の注意制御メカニズムの関係を明らかにすべく研究が進められている。
|