脳神経細胞において、細胞容積調節機構と細胞死は密接に関与している。たとえば虚血や低酸素症のような病的状態において、細胞膨張を伴うネクローシス、あるいは細胞収縮が特徴であるアポトーシスが生じることで、組織損傷が起こると考えられている。しかしながら、この虚血による細胞容積変化のメカニズムはよく分かっていない。そこで本研究では、虚血性細胞容積変化のイオン機構を解明することを目的とした。 イメージング法を用いて海馬CA1神経細胞の断面積を連続的に測定したところ、低酸素、低グルコースの虚血刺激を与えることにより細胞断面積が増加した。この虚血刺激による断面積の増加は、陰イオン輸送体全般の阻害剤であるDIDSによって抑制されたが、Cl^-チャネルブロッカーであるNPPBでは抑制されなかった。このことから、この虚血性細胞容積膨張にはCl^-/HCO_3^-交換体の関与が示唆された(自治医科大学との共同研究)。 また虚血性細胞死の一つであるアポトーシスのモデルとして、上皮系HeLa細胞を用いた。この細胞はスタウロスポリンやFas抗体、TNFαといったアポトーシス誘導剤により、アポトーシスを生じることが分かっており、アポトーシスには、その初期に起こる浸透圧性膨張後にみられる調節性容積減少(Regulatory Volume Decrease : RVD)の異常亢進が必要不可欠であることが示唆されている(前野ら、PNAS. 2000)。このRVDにはイオンチャネルが関与していることから、これらのアポトーシス誘導剤の膜電流に対する影響についてパッチクランプ法を用いて検討した。その結果、これらのアポトーシス刺激が、RVD過程に関与する容積感受性Cl^-チャネルと似た性質を持ったアニオンチャネルを浸透圧刺激なしに活性化することを見出した。したがって、アポトーシス初期にRVDに関与するイオンチャネルが異常亢進することで、細胞収縮がおこることが明らかとなった。
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