研究概要 |
ナノスケールサイズの磁性体の磁気状態を明らかにすることは,高密度磁気記録媒体などの研究開発にとって重要であるだけでなく,一般的な磁性の理解のためにも意義深い.数十から数百ナノメートルの大きさのFeアイランド(ナノ磁石)では,交換相互作用と漏れ磁場エネルギーの競合の結果,その大きさ・厚さに依存して磁気モーメントの方向が一様に揃ったシングルドメイン状態とこれらが渦を巻くように配列するボルテックス状態になることが理論研究の立場から指摘されている.従来から磁気力顕微鏡を用いて磁性体におけるマイクロ-メートル領域でのボルテックスなどの磁化状態を直接観測することは可能であったが,横方向の空間分解能が十分でないためにそれよりも小さいスケールに存在するシングルドメイン状態とボルテックス状態の境界を直接観測することは困難であった. 我々は,最近ナノスケールの磁気状態の研究において注目されているスピン偏極走査トンネル顕微鏡を用いてW基板上に成長したナノ磁石の磁気状態を観察し,シングルドメイン状態とボルテックス状態が形成される境界を実験的に決定した.また,磁石の形状を考慮に入れたマイクロ磁気計算を行い,楕円形のナノ磁石上に観測された磁気コントラストが,歪んだボルテックス状態であることを明らかにした. 一連の結果について論文執筆・投稿を行うとともに,日本物理学会秋季大会,量子・磁気・生物ナノ構造のミクロ分光国際ワークショップ,及びMMM/inter-mag国際会議にて発表した.
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