研究概要 |
本研究では,匂いセンサを用いて,嗅覚情報を記録再生するシステムの構築を目的とした.本年度は適用できる匂いの範囲の拡大と,動的匂い変化の記録方法の確立を目標として挙げた.それに対して,以下に示す成果を得た. 1.電磁弁の高速開閉制御により匂い濃度を調整する手法を用いて,16成分用の匂い調合装置を作製した.開発した調合装置を用いて,香水に対する記録再生を行い,その基礎的なデータを得た.また,従来から人工香料のりんご臭を匂いサンプルとして用いてきたが,適用できる匂いの範囲を拡大するため,自然香料である柑橘系精油に対して記録再生実験を試みた.その結果2種類の精油を混合した匂いの記録再生に成功した. 2.視覚情報の記録再生システムの有望な応用分野の1つとして,バーチャルリアリティが挙げられる.バーチャルリアリティでは空間において動的に変化する匂いを再現する技術が望まれる.通常,開放空間においる匂いは濃度が急峻に変化しており,そのような変化を再現することが望まれる.しかし,人間の鼻が感じる速度は数s程度であるので,本研究ではその数s程度で変化する匂いの再現を目標とした.それを実現するため,匂いセンサアレイを2個用い,状態方程式により2個のセンサアレイの特性差を補正する計測手法を考案した.その結果,数秒で変化する匂いの記録に成功し,大気中の匂いの再現にも成功した. 3.さらに,バーチャルリアリティへの応用を目指し,動画と共に大気中を漂う匂いの記録を試みた.市販のデジタルビデオカメラと匂いセンサアレイを組み合わせ,視嗅覚情報の同時記録再生システムを構築した.匂いセンサアレイにより測定した応答パターンから,ニューラルネットワーク(LVQ, learning vector quantization)を用いたパターン識別により,匂いの種類を記録した.また,匂いセンサの応答の大きさから匂いの強さを記録した.官能検査の結果,動画に適した匂いを記録できたことが分かった.
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