研究概要 |
Zinc fingerタンパクSall1は核内因子であり、ノックアウトマウスの解析から腎臓形成に必須な遺伝子であることが判明している。これまでに私は、Sall1が核内のheterochromatinに局在し、且つ、Wnt Signal伝達系のうちb-cateninを介したcanonical経路を活性化し得ることを見い出した。しかし、Sall1が本当にin vivoにおいてWnt signalに必須であるのかどうかの検証は行っていない。そのため、Sall1に対するsiRNAを作製し、HEK293細胞に存在する内在性のSall1タンパクの量を減らすことによって、Wnt signalの活性化が阻害されるのかどうかを検討した。その結果、siRNAによる内在性Sall1タンパクの減少量に依存してWnt signalの不活性化が観察でき、少なくとも、この培養細胞においては内在性Sall1がWnt signalに関与していることが確かめられた。次に、SALL1遺伝子が原因となるヒトの遺伝病Townes-Brocks症候群において頻繁に報告される変異で生じるC端欠失変異Sall1を作製し、その細胞内での局在とWnt signal伝達系に及ぼす影響を検証した。その結果、この変異Sall1は細胞全体に局在し野生型Sall1に結合することによって、本来のheterochromatinへの局在を阻害し、且つ、Wnt signalの活性化をも阻害した。さらに、ヒト、マウスにおいて報告されているSall family(Sall1,Sall2,Sall3,Sall4)全てにおいて、その細胞内での局在を比較した。その結果、Sall4はSall1と同様にheterochromatinに局在したが、Sall2は核内のeuchromatinに、またSall3は主に細胞質に局在することが判明した。さらに、変異Sall1タンパクは、野生型Sall1ばかりでなく、これら全ての野生型Sall familyタンパクに結合し細胞内での本来の局在を乱した。現在までに、Sall1のみを完全に決失させたマウスとSALL1遺伝子の一部が変異したヒトの遺伝病では、その表現型の示す症状が完全には一致しない。そのため、私の見い出した変異Sall1タンパクによるSall family因子群の細胞内局在の阻害は,Townes-Brocks症候群の発症のメカニズムを説明する手がかりとなるであろう。
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