研究概要 |
今年度の最も主要な成果は,非線形項が臨界冪の場合に,調和ポテンシャルのようなポテンシャル項を伴う非線形シュレディンガー方程式の定在波解が安定であることを証明したことである.ポテンシャル項が伴わない場合には,20年ほど前にWeinsteinによって,臨界冪の場合は定在波解は爆発の意味で不安定になることが示されていた.したがって,臨界冪の場合は,今回の結果により,ポテンシャル項の有無が安定・不安定性の問題に大きく影響することがわかった.この事実は,Rose and Weinsteinによる数値実験で予想はされていたが,はじめて数学的にも解明できたことになる.また,昨年度の継続として,非一様媒質の光導波管を表す非線形シュレディンガー方程式についての考察をし,定在波解の安定性が,非一様媒質の屈折率を表す関数の,遠方での減衰オーダーや,原点での特異性のオーダーに依存する事を明らかにした.非一様媒質における非線形シュレディンガー方程式の定在波解の安定性の研究は,1980年代後半にAkhmediev, Jones, Grillakis, Shatah and Straussらによって3層媒質という特別な場合について分岐理論を用いて調べられていたが,一般的な媒質の場合に分岐理論を適用しようとすると,考え得る非線形構造に制限がかかってしまう.そこで,より一般的な媒質に関して調査した.この問題については,10月から1月にかけてフランスの南パリ大学に滞在し,その大学のスタッフと議論することで結果を昨年のものより発展させることができた.さらには,非線形楕円型方程式の解について,複素数値関数の解の指数減衰とそのシャープな減衰オーダーについて考察もした.このような減衰オーダーは今までの手法では,常微分的な方法に頼っていたため,取り扱う解が正値球対称であることが必要であった.今回は全く異なる方法によって,より一般的な解についても適用できるよう拡張した.
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