研究概要 |
観測されている減衰構造と室内実験で得られている地震減衰の温度依存の関係を用いて,東北日本弧下マントルウエッジの温度構造を推定した.これまで推定されているマントルウエッジの温度構造は数値シミュレーションから得られた結果が多く,実際の観測結果を用いて推定した例は少ない.得られた結果は,マントルウエッジ内に存在する地震波低速域内の温度はカンラン岩のウエットソリダスを超えているがドライソリダスよりは低く,島弧マグマの生成には沈み込むスラブからの水の供給が必要であることを示唆している.モホ面直下の温度は火山フロント付近では1000〜1100℃である. 一方,地殻内の詳細な速度構造の推定も行った.解析対象領域は,第四紀の鳴子火山,栗駒火山が分布する宮城県鬼首地域であり,地震活動が活発な宮城県北部地域を含んでいる.鬼首地域で発生した地震に加え,東北日本全域の地震も解析に用いた.使用した観測点は約200点である.その結果,最上部から上部地殻に至る連続的な低速度域が見出された.興味深いことに,その低速度域は活火山が分布する脊梁山地に至る部分と,その前弧側の現在火山活動がみられない宮城県北部地域に至るものに分けられる.前者の低速度異常は,東北日本弧の他の地域でも見出されており,現在の火山活動に関係する部分溶融域に対応すると推測される.一方,前弧側に伸びる低速度域の周辺では微小地震活動が活発であり,1900年,1962年に大きな地震が発生していることから,低速度異常は水の存在によるものと考えられる.宮城県北部地域では,水の存在により有効法線応力が低下し,微小地震活動が活発になっているのかもしれない.
|