研究概要 |
本研究では様々な中性子検出器を使用して、高エネルギー加速器から生成する中性子のエネルギースペクトル、中性子束、線量率の取得を目的として2つの中性子遮蔽実験を行った。1つは英国Rutherford Appleton研究所の800MeV-170μAの陽子加速器を使用した遮蔽実験で、計8種類の放射化検出器を使用して、遮蔽体を深層透過してくる核破砕中性子の減弱データ及び強度分布測定を行った。また三次元モンテカルロコードであるMARS14(02)を用いてベンチマーク計算を行い、実験値と計算値の比較・検討を行った。数m以上の物質内における深層透過計算においては、中性子数が10桁程度減少するため、これまでその計算時間や統計精度、絶対値の過小評価の点が大きな問題とされていた。本研究では、MARSコードを使用した三次元つなぎ計算法を開発することで、これら問題点の克服と同時に、驚異的な一致を得ることができた。 2つ目は、放射線医学総合研究所のHIMAC施設における核子あたり400MeVの炭素イオンを使用した遮蔽実験で、使用した検出器は直径12.55cmの球形組織等価比例計数管である。この遮蔽実験では、厚さ5cmの銅ターゲットから生成する核破砕中性子をコンクリートまたは鉄遮蔽体を使用し減衰させ、吸収線量、線量当量の減弱データを測定した。同時に、遮蔽体後方におけるy分布(吸収線量分布)や実効線質係数も得られた。 高エネルギー中性子の遮蔽データ取得を目的として行った遮蔽実験においては、中性子が物質内(ここでは、コンクリート,鉄,)を透過する過程におけるエネルギースペクトルの変化や、中性子束分布、中性子減弱距離、中性子線量率など様々な中性子遮蔽のパラメータを得た。これらの実験値は中性子減弱距離や中性子強度分布の評価のみならず、遮蔽計算で使用されている計算コードの精度検証にも非常に有用である。本研究の成果は、中性子遮蔽工学の発展に役立つ貴重な実験データになると期待できるものである。
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