研究分担者 |
D.J. Crawfor オハイオ州立大学, 植物学教室, 教授
伊藤 元己 都立大学, 理学部, 助手 (00193524)
CRAWFORD Daniel j. Professor ; Department of Botany, Ohio State University
KING R. スミソニアン研究所, 研究員
CRAWFORD D.J オハイオ州立大学, 植物学教室, 教授
渡辺 邦秋 神戸大学, 教養部, 教授 (80031376)
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研究概要 |
本研究は新大陸で分化しているヒヨドリバナ属近縁植物の系統関係の解明によって,(1)ヒヨドリバナ属近縁植物は倍数体起源であり,系統分化の過程で染色体数が減少した,(2)ヒヨドリバナ属は北アメリカで起源し,その後東アジアに移住した,という仮説を検証することを目的としている。系統解析に必要な資料を収集するために,合衆国テキサス州,ハワイ州およびコスタリカにおいて野外調査を行った。その結果さまざまな染色体基本数を持つ15属の植物資料が得られた。得られた資料からCTAB法によって全DNAを抽出し,各種の制限酵素で切断後,DNA断片をアガロースゲル電気泳動によって分解した。その後葉縁体DNAのプローブを用いたサザンブロッティングによって制限酵素サイト多型を検出した。サイト多型のデータから最節約法を用いて種間・属間の系統関係を推定した。種の同定はヒヨドリバナ連の分類の専門家であるキング博士が行った。調査した種の保証標本はスミソニアン研究所の標本館に保管されている。 ヒヨドリバナ連の13属に関する系統解析の結果,Ageratina属(n=17),Neomirandia属(n=17,25)のクレードと,Mikania属(n=16-18),Stevia属(n=11),n=10の8属(ヒヨドリバナ属を含む),Brickellia属(n=9)の11属からなるクレードが,ヒヨドリバナ連の起源の後にまず分岐したことが示唆された。この結果は,n=10というヒヨドリバナ連に広く見られる染色体数がより大きな染色体数からの減少の結果であるという仮説を支持する。制限酵素サイト多型のデータからヒヨドリバナ連はヒマワリ連に起源したことが既にわかっている。ヒマワリ連ではn=8からn=16への倍数体形成が起きたことが示唆されている。今回の結果は,ヒヨドリバナ連が倍数体起源であるn=16の種に起源したことを示唆する。メキシコにはn=16をもつヒヨドリバナ連の属が知られており,今後はこれらの属の系統的位置を決めることによってヒマワリ連・ヒヨドリバナ連における染色体数の進化の過程をより詳細に明らかにしたい。 Neomirandia属はn=17と25の種を含む点で興味深い。形態的には,Neomirandia属は全縁で小型の葉を持つ種群と,切れ込みのある大型の葉を持つ種群に分けられる,コスタリカで採集した種の染色体数を調べた結果,切れ葉を持つ種群の4種はn=25,全縁葉を持つ種群はn=17(3種)とn=25(1種)を含むことがわかった。制限酵素サイト多型のデータから系統関係を推定した結果,n=17の3種,n=25の5種がそれぞれ単系統群であることが明らかになった。したがって葉の形態には平行進化が起きたと考えられる。n=17と25のどちらが祖先的形態かはまだ明らかでない。この問題については今後Ageratina属(n=17)とNeomirandia属の系統関係を解析することによって解決できる見通しである。 ヒヨドリバナ属を含むn=10の属が単系統であることが制限酵素サイト多型のデータによって支持されたので,n=10のFleischmania属を外群としてヒヨドリバナ属内の種間の系統解析を行った。その結果,北アメリカ産の輪生葉を持つ種群がまず分岐し,次に北アメリカ産の他の種と東アジア産の種が分岐したことがわかった。この結果は,ヒヨドリバナ属が北アメリカで起源し,その後東アジアに移住したという仮説を支持する結果である。北アメリカと東アジアの隔離分布は,現在気候が温暖だった第三紀に北極周辺地域に分布していた祖先種が南下し,分布域が分断された結果であると一般に考えられている。しかしヒヨドリバナ属に関しては,分断ではなく移住によって隔離分布が形成されたと考えられる。この結果は従来の定説を再検討する必要性を示唆するものである。
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