研究分担者 |
小野沢 純 東京外国語大学, 外国語学部, 助教授 (10169344)
富沢 寿勇 静岡県立大学, 国際関係学部, 助教授 (70180164)
コモ口 善美 (こも口 善美) 駒沢大学, 文学部, 教授 (40052493)
津上 誠 郡山女子大学, 短期学部, 講師 (10212052)
野村 享 (野村 亨) 慶応大学, 総合政策学部, 助教授 (00148561)
中澤 政樹 慶応大学, 総合政策学部, 非常勤講師
黒田 景子 大阪外国語大学, タイ・ベトナム語科, 非常勤講師
水島 司 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 助教授 (70126283)
川崎 有三 帝京大学, 文学部, 助教授 (20161309)
加藤 剛 京都大学, 東南アジア研究センター, 教授 (60127066)
藤本 彰三 東京農業大学, 総合研究所, 助教授 (80147488)
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研究概要 |
本研究は,多民族国家マレーシアにおいてそれぞれの民族集団が特定の地理的空間において形成してきた「共同体」を様々な角度から照射し,それらの集団間の相互接触と国民文化形成のダイナミズムを総合的に解明し,多文化状況のモデルを作り上げることを目的として実施された。二年間に渡って実施された本研究の成果の概要は以下の通りである。 宮崎は南部ジョホール州のジャワ系住民及び北部のケダ州などのマレー人社会を対象に民間信仰の調査を実施した。その結果,正統イスラムの圧力の下で再解釈を蒙りつつも,呪性を「異人」に帰する基本的な枠組みが存在していること,民間療法の領域では宗教や民族の相違を超えた実際的な思考が支配的であることを見いだした。 藤本はペナン,ケダ両州においてマレー人と華人の稲作農民の比較調査を実施し,政策的に保護されたマレー人が民間セクターの支援に頼る華人よりも経営意欲において保守的な傾向を示すこと,生産組織の編成において前者では地縁的な要素が,後者では血縁的要素が重要視されることを見いだした。 加藤はグリ・スンビラン州において華人-マレー人関係及びマレー人のアイデンティティに関する調査を行,日本軍の占領以前には華人とマレー人の関係が現在よりも地域社会内で密接であったこと,それに対し地在ではマレー系の人々の通婚圏が半島全体に広がりマレーという意識が広まりつつあることを明らかにした。 水島は国立文書館の資料を基にインド人移民社会についての文献資料調査を実施する一方ペラッ州クアラ・カンサル地域の村落において,地籍簿の記録と住民の記憶の対照調査を行い,全世帯に関する人口移動,保有財産の推移などに関わるデータから,マクロな変化とミクロな変化の関連を明らかにする手がかりを得た。 黒田はケダ州のタイ国境に近い農村を調査し,文献資料と比較対照することによって,同地域における社会構成とタイ系住民(サムサム)の人口移動の歴史を明らかにし,さらに民族意識と国家意識の形成と変遷に関わる知見を得た。 中澤はケダ州東部の山村において,口頭伝承,文献資料の両面から地方史を再構成し,マレー人イスラム教徒とタイ人仏教徒の各々の社会の相互関係に焦点を当てた調査を実施したその結果,外界との接触の増加とマレー人側の民族意識の強化に伴い,両者の分断化が進みつつあることを見いだした。 野村はサバ,サワラク両州における華人社会の調査を実施し,華人社会形成過程における出身別及び宗教的任意組織が大きな役割を果たしてきたことを明らかにした。 津上はサワラク州のカヤン族の村落形成と周辺諸民族との関係についての調査を行ない,家族に関わる諸習慣がカヤンの自意識を形成する上で大きな要素となっていることを見いだした。 〓口は南部のジョホール州においてFELDA(連邦土地開発庁)による農業開発事業とそれに伴う非土地所有層の人植による集落の形成についての調査を行ない,商品作物栽培における経営上の問題点とこの政策の持つ土地所有マレー人層の形成という狙いとその実効性に関わる知見を得た。 富沢はサバ州においてのバジャウ社会の調査を実施し,元来水上生活者であるバジャウのうち,定住生活を営むに至った人々と海上漂泊を続ける人々との接触と相互認識に関わる諸問題に焦点当てた 小野沢は半島部東海岸のトレンガヌ州においてマレー人漁民の経済活動に関する調査を行ない,華人の支配する流通経済に組み込まれる過程で,漁民の間に階層分化が生じつつあることを明らかにした。 このように,様々な観点から個別の地域社会について,集団間の相互作用による民族意識の形成あるいは強化,そして経済的,宗教的要素の介在など関わる研究成交を得た。
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