研究分担者 |
孫 智峰 南京大学, 地球科学系, 講師
楊 群 中国科学院, 南京地質古生物研究所, 研究員
張 慶龍 南京大学, 地球科学系, 助教授
邵 済安 北京大学, 地質系, 助教授
永井 ひろ美 名古屋大学, 年代測定資料研究センター, 助手 (10183526)
服部 勇 福井大学, 教育学部, 教授 (60020111)
石川 輝海 名古屋学院大学, 講師 (60089844)
矢入 憲二 岐阜大学, 教養部, 教授 (20022650)
SUN Zhi Feng Department of Earth Sciences, Nanjing University
ZHANG Qing Long Department of Earth Sciences, Nanjing University
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研究概要 |
名古屋大学と南京大学との間において交わされた学術交流の覚書にしたがって1983年から続けられている共同研究の一つの成果として,中国大陸東半部のテレ-ンマップが作られている(水谷伸治郎ならびに張慶龍による:未公刊).本研究の研究代表者はこのテレ-ンマップを基礎にして,1986年,中国東北部黒龍江省の那丹哈達地域を選んで現地の調査研究を行った.それは,那丹哈達テレ-ン(Nadanhada terrane)がアジアの地史をひもとく一つのキイ・テレ-ンであると考えたからである.中国大陸内部の地質構造に関するもう一つのキイ・テレ-ンは奏嶺山系の中に存在するということはこのテレ-ンマップからも推測されている.今回の海外学術研究では,以上の従来までの研究成果を生かして,(1)これまで行われてきた那丹哈達テレ-ンの研究をさらに続ける意味で,この地域の放散虫化石の古生物学的研究を行うとともに,(2)現地調査の対象地域として,すでに南京大学の共同研究者によって予察されている奏嶺山系西部を選び,調査研究を行った. 1986年から進められている那丹哈達テレ-ンの研究は,シホテ・アリンー那丹哈達ー美濃ス-パ-テレ-ンの存在を示唆し,アジア大陸東縁の中生代後期のテクトニクスに関する数多くの事実を提供している.この研究は今回においても続けられ,本研究の研究分担者である邵済安(北京大学)は那丹哈達地域の地質学的研究を継続して進め,同じく楊羣(南京地質古生物研究所)と研究代表者(水谷伸治郎)は那丹哈達地域と日本列島美濃帯の三畳紀・ジュラ紀放散虫化石の比較研究を行った.その一部は,今回の成果として英文で発表した.放散虫化石の研究によって今回明らかになったことは,三畳紀・ジュラ紀の境界にまたがる放散虫化石群が那丹哈達と美濃との両地域に共通して存在すること,また,そこにみられる放散虫化石の群集構成種がお互いに非常に類似していること,しかし,これらの類似性があるにもかかわらず,それらを含む堆積岩の岩質は美濃帯では縞状チャ-トであるのに対して,那丹哈達地域では珪質頁岩であること,などである. アジア大陸が中生代に形成された一大テクトニックコラ-ジュであることは,今や論を俟たない.その基本的な地質構造が北の中朝地塊と南支那地塊の二大陸塊が三畳紀末において衝突した事変によっていることも識者の間では意見の一致をみている.しかし,その間に分布する奏嶺変動帯の構成と形成過程については,まだ多くのことが謎として残されている.その奏嶺変動帯の構成に関して,今回,研究代表者(水谷伸治郎)と研究分担者(石川輝海・服部勇・永井ひろ美・張慶龍・孫智峰)は野外調査を行い,次のことを明らかにした.すなわち,奏嶺変動帯には三畳紀のタ-ビダイト(一部石灰質)を主とする鳳徽テレ-ン(FengーHui terrane)が存在すること,また,デボン紀粗粒砂岩からなるテレ-ンの存在が推定されることの2点である.これらのテレ-ンは,中朝地塊および南支那地塊のいずれにも属するものではないと考えられる.何故ならば,中朝地塊と奏嶺変動帯と南支那地塊の3者間で,同時期の地層群があっても,その厚さや岩相が異なるか,または,一部では欠落していること,浸食域と堆積域との間での砕屑性物質の収支を考えても古地理的に説明が困難であること,地質構造にも著し差が認められ,奏嶺変動帯では最も変形が進んでいること,などの事実が認められるからである.以上のことから,おそらく奏嶺変動帯自体も三畳紀に形成されたコラ-ジュ帯であろうと推定される.ただ,鳳徽テレ-ンやデボン系のテレ-ンが環太平洋のいずれの地域にその源を発するものであるかについては,未解決である.オ-ストラリア地域などを含めた全環太平洋地域の今後の研究課題であろう. なお,注目すべきは,鳳徽テレ-ンにおいて検討した結果によると,そのテレ-ンを構成する三畳系からは放散虫化石を抽出することが出来ず,鳳徽テレ-ンの地層群は三畳紀としてはめずらしく放散虫のほとんど生息していなかった海域に形成されたものと推定せざるを得ないことである.この事実と共に,奏嶺変動帯全域においても放散虫化石の産出が少ないことは,今後,検討すべき課題であろう.
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