研究分担者 |
E.E. マッカイバー サスカチュワン大学, 理学部, 研究員
R. エリス アルバータ大学, 北方研究所, 助手
J.F.バシンジャー サスカチュワン大学, 理学部, 助教授
R.W. ワイン アルバータ大学, 北方研究所, 所長教授
渋谷 昌資 愛媛大学, 森林資源学部, 助手 (70036317)
福島 和彦 名古屋大学, 農学部, 助手 (80222256)
小嶋 智 名古屋大学, 理学部, 助手 (20170243)
北川 勝弘 名古屋大学, 農学部, 助教授 (30023477)
林 和男 愛媛大学, 森林資源学部, 助教授 (80111839)
梅村 武夫 名古屋大学, 農学部, 教授 (10023417)
寺島 典二 名古屋大学, 農学部, 名誉教授
中井 信之 名古屋大学, 理学部, 名誉教授
JAMES F. Basinger Associate Professor, Dept. of Geological Sciences, Saskatchewan Univ.
ROSS W. Wein Director, Professor, Dept. of forest Sciences, Alberta Univ.
ROBERT Ellis Research Associate, Dept. of Forest Sciences, Alberta Univ.
ELIZABETH Mclver Research Associate, Dept. of Geological Sciences, Saskatchewan Univ.
MCIVER Eliza サスカチュワン大学, 理学部, 研究員
BASINGER Jam サスカチュワン大学, 理学部, 助教授
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研究概要 |
現在の北極域は雪氷に閉ざされた寒冷な気候下にあるが,中世代〜新生代第三紀には温暖湿潤で,陸上には森林が繁茂していたことが,北極海諸島に出土する樹木の化石などから知られている。通常,これらの化石は根の浮いた樹木の破片として出土するので,かって樹木が生育していたことの証明にはなるが,その生育環境についてさしたる情報を提供するものではない。これに対し,共同研究者J.F.バシンジャーが1986年アクセルハイベルグ島(ア島)で,また我々が予備調査において昨年エルズミュア島(エ島)で発見した第三紀の化石林は,往時の森林が生育時の状態で根を張ったまま埋没したもので,樹種構成はもとより林木相互の位置や競合関係に至るまで,森林としての構造が保存されており,往時の生育状況や,極地方において森林の成立を可能にした地球環境について,単なる樹木化石とは較べものにならないほどの情報を与えるものである。 本年度は,森林とその生育環境の復元を目的に,ア島の『化石林の丘』およびエ島の『ミュージアムサイト』と『ニューサイト』で化石林の発掘と復元を行った。これら三箇所の調査地いずれにおいても,数十層の地層が露出しており,各層に化石林が含まれている。このうち『化石林の丘』の特徴は,その地層が水平に保たれているとともに,生育時の状態で出土する根株,丸太,落枝落葉が化石とは言うもののミイラ化した木材で未だ珪化していない点である。これに対しエ島の化石林は二箇所とも地層が傾斜し,出土物はすべて珪化している。珪化していない樹木の遺体からはより多くの情報が得られるので,調査の主眼はア島の化石林の丘においた。ただし,これが第三紀始新世(3700-5800万年前)のものであるのに対し,エ島の化石林は同,暁新世(5800-6600万年前),とりわけニューサイトの化石林は中世代白亜期の可能性もあり,これら三つのサイトを繋ぐことにより,地球が地球寒冷化したK-Tバウンダリーから第三紀前半を被うことができるので,この点にも留意して調査を行った。以下に各サイトの概要を記す。 化石林の丘: 水平に堆積した地層と山腹斜面が成す等高線に沿って線状に化石林が出土するのが一般的だが,うちN層は稜線上にあって水平に風食されているため,面積0.4ヘクタールにわたり化石林が面状に露出している。N層の表土を剥いで,この中に存在するすべての根株を同定した後,その位置を測量し,直径,高さ,テーパー,根の形態,根圏の深さ等につき毎木調査を行い,森林の復元に必要な定性的・定量的なデータを収集した。また室内での分析に供するため,根株,樹皮,落枝落葉層,古土壌などを採取し持ち帰った。N層以外の化石林については,化石林の丘全体の地形測量に併せて地層の柱状図を作成し,各層から線状に出土する化石林と地質の対比から堆積環境の変化を復元するためのデータを収集した。 ミュージアムサイト: 地層が傾斜しているため,地表面には各層に含まれる森林が線状に露出している。地形測量を行ったうえ,化石林の丘の場合と同様,露出した根株の位置測量に併せてその直径,高さ,テーパー,根の形態,根圏の深さなどを測定した。この方法は,現生の森林調査に例えるならばラインサンプリングに相当し,これと同水準の森林復元が可能である。 ニューサイト: ミュージアムサイトと同様,地層が傾斜しており,ラインサンプリングの手法で森林復元を行った。ただしミュージアムサイトより保存が悪い。 最終的な結果は今後の解析を待たねばならないが,少なくとも現地の調査より,第三紀の北極圏には現在の温帯林〜暖帯林に相当する現存量と一次生産を持つ森林が存在したことが明らかになった。本研究とは別に,地球化学的な炭素循環の研究から,第三紀の大気には現在の3〜5倍の二酸化炭素があったとされているが,基本的にはこれが往時の北極地方で森林の存在を可能にした最大の要因であろう。また現在懸念されている二酸化炭素の倍増にともなう気候の変化について,大気大循環モデルの予測から特に極地方での気温上昇が著しいと言われているが,本研究は,こうした数値モデルによる地球温暖化の予測に,具体的なナチュラルアナログを提供するものである。
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