研究分担者 |
JAYARARDEMA エイダブリユ 香港大学, 工学部, 教授
劉 樹坤 中国科学院, 水利部研究所, 副所長
王 守鶴 中国科学院, 水利部研究所, 所長
沖 大幹 東京大学, 生産技術研究所, 助手 (50221148)
小尻 利治 岐阜大学, 工学部, 助教授 (00026353)
小林 慎太郎 京都大学, 農学部, 教授 (20026602)
岡田 憲夫 京都大学, 防災研究所, 教授 (00026296)
塚谷 恒夫 京都大学, 経済研究所, 教授 (90027459)
池淵 周一 京都大学, 防災研究所, 教授 (20026181)
JAYARARDENA A. W. Faulty of Engineering, Hong Kong University
LIU Shukun Department of Water Resources, Institute of Water Conservancy and Electric Power
WANG Shoue Department of Water Resources, Institute of Water Conservancy and Electric Power
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研究概要 |
本研究の目的は,中国華北(梁河・海河)及び華南(珠江・香港)地方を対象に,降雨分布・蒸発・流出の水文特性,水利用,水処理,効果・被害等のシステム特性を調査し,日本の水資源問題と比較・整理し,今後の共同研究のテ-マを探ることにあった.そのため平成3年10月には中国北京市にある水利水電料学院水資源研究所を訪ね日中双方から水資源問題の特性および取り組みについて議論するとともに,北京市への水供給施設である海河流域密雲ダムを現地調査した.同時に香港大学を訪ね大学の水資源研究者と同様の議論を重ねた.さらに平成4年3月には再度水資源研究所を訪ね,先の訪問で明かになった水文予測及びダム操作の問題に絞って討議を行うとともに,天津市への水供給施設である梁河流域潘家口ダムを訪ね,ダムの実時間操作システムについて現地担当者と議論を重ねた.これら2回の学術調査により得られた研究上の成果は以下のようである. 1.水資源一般に関する問題では,華北・華南の水資源アンバランスを解消するための水資源計画および華北(特に北京,天津など)における水需要の増大に対処するための水資源計画の概要が調査できた. 2.管理の面では,経済学的および自然科学的な観点からの問題が議論されたが,その中で水文予測については降雨・流出の遅れ時間が我国に比べて長く,降雨,水位・流量観測情報のみが管理情報になっているが,今後の合理的なダム管理にあたっては,降雨の予測法および長期間流出予測法の開発なども重要になってこよう.その際にはこれらダム流域で現在用いられている物理的(概念的)モデルを活用した形で,我国で展開されている研究成果が大いに役立つことが予想された.同時に,中国華北地域では降雨量が少ない(年降水量420mm,可能年蒸発散量900mm)こともあって大容量ダムの建設がなされており(例えば密雲ダムの容量43.75億m^3,潘家口ダム29.3億m^3),洪水も水資源の一部としてとらえ全量貯留し,分水路(diversion system)で北京,天津等の都市部に水供給をはかっている.このことから,短・長期連携した貯水池操作が要求される.また,渇水時には地域や目的別に明確な重み(例えば水供給の優先順位は都市用水,工業用水,農業用水の順になっており,農業用水がダム下流域での地下水揚水に頼らざるを得ない)をつけて使用カットを行っており,その意味でも長期的な操作手順の定式化さらにシステムの安全度指標をを導入した操作手法が今後大いに議論されよう. 3.水資源開発と水環境問題についてもいくつかの問題提起があった.華北地方においては工業用水や潅漑用水としての地下水揚水に起因する地盤沈下が深刻であるがそのモニタリングシステムとしての連続的(定期的)な地下水観測が行われている観測井が極めて少ない.今後,適正な水資源利用計画・管理計画の樹立のためにも観測網の確立を強調したい.また,農地開発にともなって流出量は減少,蒸発散量は増加するとの調査結果が示されたが,我国のような湿潤地帯(年降水量1,500〜2,000mm)では,山林地帯の農地造成によって洪水流出量は増大し,蒸発散量は減少するのが一般的であるので,これらが中国における農地開発,営農方法,気象・地形条件などの違いに起因するのか,今後,これらの要因と水循環を構成する各要素について詳細な調査研究が望まれる.香港では年降水量は2,200mm程度であるが国土が狭く,香港の水の60%は中国珠江流域から輸入している.価格が安く供給されリサイクルはされていないが,下水処理はCODを指標に500を50にして海へ放流しており,湾部における赤潮被害が深刻である.九龍と香港島の下水を海底トンネルで70km沖に輸送し海洋に放出(20〜30m^3/s)する計画があり,現在詳細設計中であるが海洋汚染の疑念を禁じ得ない. これら水資源問題の概要成果は今後詳細な水文・水資源資料,社会・経済資料等を通して,さらに具体的記述が可能になるものであるが,今回は短期間の内に水資源問題全貌を調査することに焦点を当てるとともに,今後この分野での日中共同研究のテ-マ,その実施方法などについて協議し,ヒュ-マンコミュニケ-ションを培うことに努めた.その意味で最大の成果があったと確信している.
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