研究課題/領域番号 |
03041046
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西田 利貞 京都大学, 理学部, 教授 (40011647)
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研究分担者 |
ゲサセ アイノリー ダルエスサラーム大学, 医学部, 講師
川中 健二 岡山理科大学, 教授 (70020790)
GESASE Ainory P. University of Dar-es-Salaam, School of Medicine
HUFFMAN Michael A. Kyoto University, Faculty of Science
A P ゲサセ ダルエスサラーム大学, 医学部, 助手
エデウス マサウェ マハレ山塊野生動物研究センター, 所長
乗越 皓司 上智大学, 理工学部, 助教授 (50119137)
早木 仁成 神戸学院大学, 人文学部, 講師 (60228559)
上原 重男 札幌大学, 教養部, 教授 (20145965)
エデウス マサウエ マハレ山塊野生動物研究センター, 所長
葭田 光三 日本大学, 文理学部, 助教授 (50059945)
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研究期間 (年度) |
1991 – 1993
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研究課題ステータス |
完了 (1993年度)
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配分額 *注記 |
34,000千円 (直接経費: 34,000千円)
1993年度: 12,000千円 (直接経費: 12,000千円)
1992年度: 10,000千円 (直接経費: 10,000千円)
1991年度: 12,000千円 (直接経費: 12,000千円)
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キーワード | チンパンジー / 協力 / 葛藤 / 競合 / 連合 / 同盟 / 和解 / 互酬的利他行動 / 支持戦略 / 連合形成 / アルファ雄 / 狩猟行動 / 道具使用 / 分配 / DNA / 葛藤解決 / 闘争 / 社会的知能 / チンパンジ- / マハレ山塊 |
研究概要 |
過年度に引続き、大人雄の連合・同盟関係を中心に、野生チンパンジーの協力と葛藤解決の問題に取り組んだ。 1.連合・同盟関係:(1)まず、1993年4月の調査再開時までには最高齢で順位は最下位の雄が死亡したらしく、以後姿が見られなかった。しかし、彼の欠落は上位雄たちの間の社会関係には影響がなかった。(2)大人雄の優劣関係は、高順位3頭と下順位3頭については個体の死亡を除いて1992年と変化がなかったが、第4位から6位までの中順位の3頭の間の関係は明瞭ではなく流動的であった。(3)アルファ雄と第二位雄とのライバル関係は、1992年に引続き、集団の不安定要素であった。しかし、アルファ雄の地位は安定していて、三位雄との連合関係が前年と同様に維持されていた。二頭の間の毛づくろい関係、両者いずれかからの連合要請と第二位雄に対する共同攻撃が高頻度に観察された。また、三位雄が不在のとき、あるいは三位雄が中立を保っているときに、アルファ雄が二位雄を攻撃するのが見られた。逆に、三位雄が二位雄を誘ってアルファ雄に対し攻撃をしかけるのもまれに見られたが、直ちにアルファ雄は三位雄に接近して和解をはかり、結局アルファ雄-三位雄の同盟が復活して、二位雄による権力奪取は起こらなかった。また、三位雄と二位雄との間の毛づくろい行動もほとんど見られなかった。(4)三位雄は中順位の特定の雄から執拗な挑戦を受けたが、アルファ雄は連合を要請する三位雄を援助し、中順位雄を攻撃した。このようにアルファ雄と三位雄の同盟関係は双方にとって利益の大きい関係、つまり互酬的利他行動だと考えられた。(5)91年と92年に集団リンチを受けた中順位の雄ジルバは、93年には2頭の大人雌の協同攻撃を受け、左手中指を咬みきられた。これは2頭の雌のうち発情していた一頭がジルバの求愛を拒否したことに端を発する。これら雌の間では雄と同様の連合要請の行動パターンが観察された。2.人口学的資料:この一年に赤ん坊11頭、子ども1頭、若者2頭、大人5頭の少なくとも19頭のチンパンジーが死亡した。そのうち10頭は1993年8月に大流行したインフルエンザが原因であった。3.子守と養子取り行動:3頭の孤児の赤ん坊がそれぞれ多くの個体に世話(運搬、毛づくろい)された。特筆すべきは、離乳はおろか、まだ独りで移動できずない2才の赤ん坊が、特定の少数の大人と若者の雌に世話されて、4か月以上たった現在も生存していることである。これは、野生チンパンジー研究史上、例を見ない記録である。4.大人の死体に対する反応:老齢の大人雄の新しい死体に対し、同じ集団の個体は検査、パント・フ-ト、デイスプレーなど多様な興味ある反応を示すことが記録された。5.音声・録画資料:過年度に集めた音声は、主としてパント・フ-トであったが、今年度はそれに加え、パント・グラントや休憩時のグラント、採食グラントなど近距離あるいは対面的な伝達に使われる音声を多数例集めることができた。 6.骨格・筋肉・血液標本:大人雄1、大人雌2頭の全身骨格標本、これら3頭の筋肉断片や血液のアルコール液浸標本を持ち帰った。ほぼ年齢のわかっている骨格標本は形態学の専門家の測定にまわす。筋肉・血液標本はDNAタイピングのための資料として用いる。7.糞分析と寄生虫検索:薬用植物と腸内寄生虫密度の関係を調べるため、糞を規則的に収集した。老齢で死亡した雄の糞からは、肉眼観察で多数の寄生虫成体を発見した。 8.道具使用:92年度に新発見された道具使用例、つまり大人雄の1頭が棒を鼻孔にさしこんでくしゃみを誘発して鼻づまりを直す行動、は93年度も観察されたが、やはり同じ雄しかおこなわなかった。行動の模倣がチンパンジーでもむつかしいことを証拠だてるデータである。9.収集資料の分析と出版:過年度(91、92年度)に集めた資料に関しては、すでに出版済みの論文が3本、印刷中の論文が6本ある。また、アルファ雄の交代過程、大人雄の同盟・連合戦略、大人雄の威嚇誇示の個性、大人雄の交尾成功度におよぼす同盟・連合関係の影響、DNAタイピングによる親子判定、威嚇誇示や道具使用における手の一側優位性、などについて分析をほぼ終了し、そのうち半数はプレプリントの状態に達しており、94年度中に雑誌に投稿できる予定である。
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