研究概要 |
本研究の遂行によって,以下のような成果が得られた。 I.植物病原菌に関する成果 種子伝染性植物病原菌の種類・分布調査は農薬作用削減の観点からみても,大変重要であるが,我国では大変立遅れいてる。日本産の十字科作物種子から検出されるAlternaria属菌に関し,A.cheiranthiがニュ-ジランドで,ニオイアラセイトウと同一の種に属することが確認できた。近年,我国にはニュ-ジランド産青果類が多量に輸入されているが,店頭でかびるポストハ-ベスト劣化が目立っている。当地の店頭あるいは貯蔵施設で,腐敗に関与する糸状菌の調査を行った。潜在感染菌については,今後より詳しい調査が必要である。また,ニュ-ジランド,タスマニア,ニュ-カレドニア各地から,基礎資料となる病害標本,菌株を多数採集できた。 II.植物内生菌(エンドファイト)に関する成果 エンドファイトの活用にあたっては,まず,その分布を明らかにする必要がある。今回の調査の結果,ニュ-ジランドにおける分布の概容,研究上の問題点に関する情報が得られた。我国の帰化イネ科植物から検出されるものとの異同について現在検討中である。木本植物内生菌に関しては,ノトファグス類のcyttariaゴ-ルに生息する糸状菌の分離を計画中である。予備実験の結果,ニュ-ジランド及びタスマニア島産のものから,同一の培養性状を示すものを確認している。ブナ類の分化との関係を明らかにする必要がある。 III.動物相に関与するアンモニア菌の生態研究 南半球ではじめて,土壌への尿素またはアンモニア施用によって特異的に発生する菌類相の調査を行った。さらに,森林害獣として捕殺されたポッサムの分解過程と発生菌類のサクセッションを調査した。この結果,発生菌類相は,北半球と基本的に同じであることを確認した。ほかに,未同定の菌数種も得られ,南半球に特有なものの関与も考えられる。動物種,林分を異にして,実験を継続する必要がある。 IV.菌根性菌類に関する成果 数種の大型キノコに関して,南半球ではじめて,シロの調査を行った。Hebeloma victorienseは典型的な外生菌根菌,cortinarius australiensisは地中に厚い菌糸層をもち,環状に広がるほか,その菌根はこれまでにない形態的特徴をそなえていた。北半球におけるマツタケ類と生態的同位の関係が示唆された。タスマニアのユ-カリ林,ニュ-ジランド,ニュ-カレドニア島で採集したものについては,現在同定作業を行っているが,多数の新種と思われる資料が含まれている。 V.有用菌類に関する成果 ニュ-ジランド南島において,シイタケ,ショウロなどの発生地が確認できた。ガノデルマをニュ-ジランド,タスマニア,ニュ-カレドニア各地から多数採集した。これらから,いづれも純粋培養を得えDSIRに保存した。これらは,いずれも,食用あるいは,リグニン分解用の微生物遺伝資原となるものである。Trichoderma=Hypocreaも,また,セルロ-ス分解能はじめ,その活用が注目される酵素群を保持するものである。とくに南太平洋地域のものは,近年,注目されている。ニュ-カレドニアで5点採集できた。現在,コスミッド・ライブラリ-を作製中である。 VI.その他の成果 とくに,ニュ-カレドニアでの成果を挙げれば,以下のようである。1)日本には,ニュ-カレドニアの顕花植物及びシダ植物の標本は少なく,固有種が75%を超えるという同地の貴重な標本が集積された。2)固有種に寄生,あるいは基質とする菌類が多数採集できたが,同島新産種,学界新種がかなり含まれている。 VII.招へい研究者との共同研究 タスマニア大学ミルズ博士を招へいし,講演会を3回行った。 以上のように,上記地域から得られる成果は極めて大きい。今後継続して調査を行ない,遺伝資原の収集に努めるとともに,地球生物環境の保全に関する基礎資料を集積する必要がある。
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