研究概要 |
本報告は,『中緯度から赤道域にわたる超高層大気へのエネルギー輸送と変換過程』を課題とし,3年にわたって実施された海外学術調査研究の最終年度の報告である. 本研究は,1991年度から実施された太陽地球系エネルギー国際共同研究計画(STEP)の一環として,中緯度・赤道地域において,それぞれの国の研究者・関係者の協力を得て,磁気流体波動(ULF),プラズマ波動(VLF)に関する共役点観測を含む地球規模の観測網を設置し,地球スケールのULF波動,VLF波動の時間・空間構造を明らかにすることを目的としている. 観測網の縦主軸として,日本,インドネシア,オーストラリアを結ぶ経度120度線,縦副軸としてヨーロッパ,アフリカを結ぶ0度線,ならびにカナダ,ブラジルを結ぶ310度線,主横軸として西太平洋(パラオ,ヤップ),ペル-,ブラジル,カメルーン,スリランカにまたがる磁気赤道上に観測点が設けられた.本年度は計画の最終年ではあるにも拘わらず,次のような新しい観測点を加え,観測点合計として,60点(九州大学30点,名古屋大学30点)の多きに達した.本年度,新たに設置された観測点は, キアバ(ブラジル,マットグロッソ州),コリブリ(ブラジル,マットグロッソ州) ヴィレ-ニャ(ブラジル,マットグロッソ州),プレセンチ・メヂチ(ブラジル,ロンドニア州) アリキエメス(ブラジル,ロンドニア州),ポルト・ヴェリョ(ブラジル,ロンドニア州) チェンマイ(タイ,北部),ムンテンルパ(フィリピン) ルンピン(台湾),チィリャンカ(ロシア,シベリア) などである. 記すべきことは多々あるが,紙面の都合で特に重要なものだけを箇条書き的に記そう. 1.機器開発 本調査研究は海外野外観測という形態であるので,それに見合う機器の開発が重要な課題であった.観測の完全自動化をめざして鋭意機器の開発研究が行われ,85%の達成度を実現させたが,15%の不完全さを残してしまった.上記の太字の6観測点はブラジル内陸部の密林地帯に設置されたものであり,機器のメインテナンスが大変困難な環境であった.設置後4ヶ月を経たとき,チェックのためデータを回収し機器の動作状況を点検した.残念ながら6点中4点がトラブルを起こし,記録が中断されていた.その主原因は電源にあり,この方面の商用電源事情の想像以上の悪さによるものと判定された.本研究は今年度で一応の区切りがつくが,研究自体は継続されるので,原因を更に詳しく究明して来年度(1994/5年)に再度挑戦する予定である. 2.科学上の成果 ・磁気赤道は予想以上に狭い地帯で,しかも,その境界がかなりシャープであると考えられること. ・その狭い磁気赤道上では,電磁流体波動の経度方向の波数(m)は,m《0であること. ・赤道地上のULFと静止軌道衛星高度の低エネルギー粒子とは密接な関係にあること. ・Pscに伴うULFの周波数は全世界で殆ど同じであるが,波形が昼側ではシャープ,夜側ではナマルことから,Pscも伝搬性の波動であることがうかがえること. ・低緯度オーロラに伴う磁場変化が同定されたこと. ・低緯度におけるHとDの特異な緯度変化特性が明らかになったこと. などである.
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