研究分担者 |
劉 開彦 新疆医学院, 助手
王 静雄 新疆医学院, 助教授
楊 文光 新疆医学院, 教授
久保 智之 福岡教育大学, 助教授 (30214993)
斎藤 篤司 (斉藤 篤司) 九州大学, 健康科学センター, 助手 (90195975)
金谷 庄蔵 九州大学, 健康科学センター, 助教授 (20117089)
緒方 哲朗 九州大学, 歯学部, 助手 (50204061)
松本 敏秀 九州大学, 歯学部, 助手 (60199883)
中田 稔 九州大学, 歯学部, 教授 (40014013)
WAN Xin Xian Xinjiang Medical College
YANG Wen Guang Xinjiang Medical College
楊 坤河 新疆医学院, 助手
張 家麟 新疆医学院, 教授
丸山 孝一 九州大学, 教育学部, 教授 (80037035)
山内 須美子 中村学園短期大学, 食物栄養科, 助教授
山田 裕章 九州大学, 健康科学センター, 教授 (60038726)
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研究概要 |
〈はじめに〉 本研究は,中華人民共和国新疆イリ地区に居住する少数民族であるシボ族の実態を人類学(形質人類学,生理人類学,文化人類学)的,医学的手法を用いて明らかにすることを目的とした。 〈対象〉 新疆ウイグル自治区に居住するシボ族(小児403名,18才以上の男女755名)および対照として同地区に居住するカザフ族(211名),ウイグル族(310名),漢民族(202名)を調査した。 〈結果〉 (1)生理人類学的調査 生理人類学的指標としての心電図SV1+RV5(SR)の民族差と心臓超音波検査との比較検討を行った。SRは,若年男子(18〜22才)に限って比較すると,日本人(3.71±1.10mV)>カ族(3.40±0.85)>ウ族(3.23±0.80)>漢民族(3.14±0.78)>シボ族(2.81±0.65)の順に高く,漢族はウ族以外と有意差を認めた。またSRは,心エコーの諸指標や血圧等と有意な相関は示さなかった。この結果は,シボ族の自律神経機能とくに交感神経機能活性度は比較的に低いか,または安定していることを示唆する。 (2)歯科人類学的調査結果 シボ族小児の上顎左側中切歯の舌側窩の深さの平均は,1.07mmであった。これは,ウイグル族の0.77mm,カザフ族の0.80mmより深く,日本人で調べた1.21mmよりも浅かった。また舌側窩の深さ0.50mm未満の頻度は,シボ族で4.9%あり,これもウイグル族(19.8%),カザフ族(20.3%)と日本人(1.5%)の間にあった。 シボ族のカラベリ-結節の頻度は25.7%であった。これは,ウイグル族の37.2%,カザフ族の33.6%よりも少なく,日本人の26.7%とほぼ等しかった。またシボ族のカラベリ-結節の大きさの平均は,幅3.17mm,高さ1.59mmであった。 (3)形質人類学的調査結果 形態指標としては,身長,体重,胸囲,上腕,大腿囲,下腿囲,上腕背部・肩甲骨下部・腸骨上縁部の皮下脂肪厚を計測した。また,Nagamineの方法に基づき,皮下脂肪から体脂肪率を推定した。運動負荷として,2段階の踏台昇降運動を用い,その時の心拍数からMargariaの方法を用い最大酸素摂取量を推定した。身長,体重ともにウルムチ,イリ両地区に居住するウイグル族やカザフ族に比べ,高値傾向を示したが,今回の調査の結果,男女とも年齢による身長や体重の低下が少なく,しかも,LBM,%FATから,肥満傾向が強い民族である可能性が示唆された。 (4)栄養学的調査 シボ族の食文化は主食文化と言える。また,シボ米が生産され,配給米があっても主食の主流ではなく,いわゆる小麦の粉食が主食の中心となっていた。その小麦粉の成分分析では,日本のそれに比し,蛋白質が低値を示した。 (5)言語学的調査結果 シボ語は,現在急速に進行しつつある社会変化にともなって,大きく変容しつつあった。老年層若年層,農村部対都市部という大ざっぱな比較だけでも,音韻体系をはじめとする文法の諸部分に,かなり大きな相違がみられた。都市部のシボ族の若年層の中には,すでに漢語を母語とするようになっている者もいた。彼らが老年層と話すときに用いるシボ語は,老年層のシボ語とはいくつかの重要な点で異なっており,言語の消滅へと至る一過程を示していると言える。
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