研究分担者 |
岡 秀一 東京都立大学, 理学部, 助手 (50106605)
大賀 宣彦 千葉大学, 理学部, 講師 (70009059)
増沢 武弘 静岡大学, 理学部, 助教授 (40111801)
KAWAKUBO Nobumitsu Faculty of Education, Kagoshima UNiversity
RAMON Ferreyra Faculty of Natural History, San Marcos University (PERU)
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研究概要 |
1991年度の調査は本来ペル-のロマスで行なう予定であった。同年夏以来同国の治安状況の悪化により急遽チリに変更したが、もともとロマス植生はペル-、チリ-にかけての現象であり、いずれ両者を比較する計画をもっていた。本年度チリ-では北部に異常に量の降水があり、砂漠に大きな規模で植生が生じた。これが霧にだけ依存する本来の意味でのロマスであるかが、今後の問題として残された。また構成種も種レベルではペル-のものとは異なるものが多いため、直接の比較をするためには今後チリ-でのデ-タをさらに蓄積する必要がある。 今年度調査ではおおむね次のような成果を得た。 1.チリ中北部におけるロマス植生の分布特性と水分環境に関する調査を行った.特にコピアポ周辺(27'S)については詳細な調査を試みた. チリ中北部における1991年のロマス植生は,南緯26度付近から南緯29度付近にかけてかなりの広がりをもって成立した.ロマス植生全体を通じてみると,その分布は特に地形条件に規定されることなく広がっているように見えるが,その群落組成に注目しながらやや細かくみれば,地形条件を反映したと思われる特徴的な差異を見いだすことができる. チリ中北部における1991年の月降水量資料によれば,6,7月にはその原因は明らかに南から移動してきたと考えられる降雨が集中的にあり,それは南方から少なくとも南緯23.5度付近のアントファガスタにまで達した.当該年の広域にわたるロマス植生成立の背景には,この様な広域にわたる降雨が大きく寄与した可能性がある.一方,ヒ≠アポ近郊の小丘(Cerro Punta de Vacas)では,いくつかの特徴的な地形条件を持つ地点で遽紙を用いた霧水の捕捉調査を行った.捕捉された霧水量は風向に応じた地形条件によく対応しており,群落組成のモザイクとも対応がよかった.これらの結果は,このようなスケ-ルのもとでは,群落そのものが地形条件に支配される海霧のふるまいに強く規定されるということを示唆しよう. 2.植物の物質生産に関する調査地はPunta de Vacasのロマス群落が成立している南東斜面とその下方につずく平地に設定した.この斜面中央部にはCalandriniaが優先種となっている群落が成立していた。この群落内に微気象測定装置を設置し約20日間、典型的なロマス群落の微気象を測定した。その結果、日中は地表面温度が40ーー45Cに上昇すること、夜間には気温が低下し、植物の葉が存在する地表面付近では結露することがわかった。この斜面から平地にかけてFortunetia,Calandrinia,Cordenia(Tiquilla),Cristariaの4タイプの群落が成立していた。 これらの残存量は低生産力の草原とほぼ同じ値を示した。またFortunetia(ユリ科)の群落では、他の群落と比較して、地下部の現存量が著しく多かった水ポテンシャルについては以下の2つのタイプが認められた。日中、気温の上昇とともに水ポテンシャルを低下させ水分吸収能力を高めるタイプ(Cristaria,Cordenia)と、気温の上昇に関係なく一定の値を維持するタイプ(Calandrinia,Fortunetia)とである。 3.ロマス成立の年の発芽前と種子散布後の埋土種子の種構成と量、次のロマス成立までの間の埋土種子量の減衰速度の把握は草本ロマス群落の維持気候を知る上で重要である。Punta de Vacasの植生を層別し、代表的な植生であるCristaria,Calandrinia,Cordenia(Tiquilla)の各群落で植生調査と埋土種子集団の調査のための採土を行なった。また、埋土種子の地中での寿命の長さを調べるための予備調査として、各種の種子200ーー300粒を各地点の地中5cmの深さに埋めてきた。植生調査と採土は開花の最盛期の10月末と、種によって、開花期、種子散布開始期、同終了期などにあたる11月はじめに行ない、現地で比重選別した後持ち帰って現在種子の摘出を行なっている。地中に埋めてきた3種の種子は次回の調査で掘り出して発芽能力を調べる予定である。
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