研究分担者 |
WANGCHHUK Pe ブータル政府総合開発部門, 長官
GURUNG S.B. トリビューバン大学(ネパール国), 教授
山本 英治 東京女子大学, 現代文化学部, 教授 (50086261)
佐藤 洋一郎 国立遺伝子研究所, 総合遺伝研究系, 助手 (20145113)
大西 近江 京都大学, 農学部, 助教授 (20109044)
小西 猛朗 九州大学, 農学部・遺伝子資源研究センター, 教授 (70033115)
PEMA Wangchhuk Secretary, Survey of Bhutan, Bhutan Government, Thimphu, Bhutan
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研究概要 |
本研究は昭和50年実施の「第1次ネパ-ルにおける栽培植物と生活様式の関連についての基礎研究」,昭和58年実施の「第2次ネパ-ルにおける稲・雑穀・香辛料の栽培と利用に関する研究」をふまえて、主要な栽培植物としてイネ,オオムギ,ソバ,トウガラシを中心に、それらの遺伝子レベルでの変異を調査するとともに、その利用状況,農業構造を検討し、将来の農業開発・食糧開発に今回の調査が資するよう考察した。 1)研究会の実施.東京女子大学文理学部にて実施. 平成3年8月6日調査にあたって既存資料の収集,および研究方法の検討,平成3年8月27日調査内容・項目の検討および調査実施準備,平成4年2月18・19日調査結果まとめ・考察. 2)現地調査実施.ネパ-ル国カトマンズ,ポカラ,バルバット地域においてトリビュ-バン大学S.B.Gurung教授と共同して調査を実施した。平成3年9月24〜10月2日ブ-タン国ティンプ-,プナカ,トンサ周辺においてP.Wangchhuk長官の協力で調査を実施した。 3)研究発表ー講演会開催,英文報告書作成. 平成3年11月6日福田・山本・佐藤が「ヒマラヤ王国ブ-タンー現存する古代社会の稲作と唐辛子」を東京女子大学で講演.平成4年3月31日英文報告書" "を完成し,印刷へまわす. 4)研究成果の概要. 《ネパ-ル,ブ-タンの遺伝子資源としてのイネ》 西ネパ-ルでは2,000mの地点までイネがつくられていたが、ジヤポニカ型赤米が夛く、極めて変異に富む。ブ-タンの最変地点は2600mであるが、これはDasho Nishiokaによって日本から輸入されたタカネニンキなど耐寒性がある品種であった。しかし、もっとも強い品種は赤米であった。プナカ周辺にはインデイカ型が入っていたが,これはIRRIでつくり出されたものに存来種が交雑してできたものであった。ブ-タンのイネの特徴は、草丈,籾の色,種子稔性などの形質が示す著しい不均一性で、遺伝的に注目される. 《ネパ-ル,ブ-タンの遺伝子資源としてのオオムギ》 西ネパ-ルでは皮性オオムギと裸性オオムギが栽培されていたが、ブ-タンでは裸性オオムギだけであった.エステラ-ゼ同位酵素(EST),アスパラギン酸アミノ転移酵素(AAT)のアイソザイム分析では、集囲内・集囲門に顕著な変異性が認められ,その遺伝的変異性の動向かうネパ-ルのオオムギはインドから,ブ-タンのオオムギはチベットから来たものであると考えられた. 《ネパ-ル,ブ-タンの遺伝子資源としてのソバ》 ソバの起源と推定される野生種が大西(本研究分担者)によって中国の雲南であることが見出されたが,今回の調査によって、その発祥の地から西方へ伝播してブ-タン,ネパ-ルへ移っていたことがアイソザイム分析を通じて明らかにされた。さらに今回の調査で、中央ブ-タンでソバ粉から麺をつくっているところを見つけた。 《ネパ-ル,ブ-タンの遺伝子資源としてのトウガラシ》 西ネパ-ルの山岳地帯ではグルン族が住んでおり、その村を訪れての調査ではトウガラシは高度1,000mから1,500mにわたってドクレ・クルサニイと呼ばれる大きく長い実の品種が主で、1,500mから2,000mではジャシマラ・クルサニイ,チエチエ・クルサニイ,ジレ・クルサニイといった小さい,丸い実の品種が栽培されている.高度に応ずる適応の栽培選択が人間の手で生じている。ブ-タンでは,1,500m以上2,500mまでRed Bell Pepperの品種のみが栽培されていたが,エステラ-ゼのアイソザイム分析では、この品種内に極めて高い変異性が高度に応じてみられる.これは人間がこの地に導入して以後極めて短い期間に植物自身が適応して遺伝子機構をつくりあげてきたものと注目される. 以上,今回の調査では栽培植物が有する遺伝機構に、人間の選抜が加って、極めて重要な遺伝子保有がネパ-ル,ブ-タンに維持されていることがわかった。これらを活用して食糧開発をはかりたい。
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