研究分担者 |
中島 茂 賢明女子学院短期大学, 助教授 (70188952)
村上 雅康 関西大学, 文学部, 教授 (20015829)
中村 泰三 大阪市立大学, 文学部, 教授 (10046980)
角山 幸洋 関西大学, 経済学部, 教授 (40071229)
GOZENC Selam インタンブル大学, 海洋学地理学研究所, 所長
BALAZS Gyorg ハンガリー農業博物館, 栽培加工史部, 部長
藤本 勝次 関西大学, 文学部, 教授 (60067387)
芝井 敬司 関西大学, 文学部, 助教授 (00144311)
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研究概要 |
1.西南アジアと東南ヨーロッパはともに回廊的な性格をもち,古来,文化と民族の往来が相互にみられ,加えて近世・近代にはオスマントルコ帝国が200年前後にわたって東南ヨーロッパを支配してきた歴史をもつ。それ故,これら両地域では,長期にわたり,各分野での文化接触が繰り返されてきている。本研究は,このような文化接触の結果生み出された物質文化の類似性を,基底的な衣食住の生産技術・生活技術に焦点を合わせ,歴史地理学的に解明しようとしたものである。 2.製粉技術関係:オスマントルコ帝国の影響よりもハプスブルク家支配によるオーストリア的影響がより強くみられたハンガリーとは異なり,東南ヨーロッパも南寄りのブルガリア,クレタ島(ギリシア)では,トルコで一般的な水平型製粉水車が広く用いられてきた。水軍技術史の上ではこの水平型水車は,乗直型水車の「ローマ式」に対して「ギリシア式」と名付けられているが,クレタ島では現存するこの製粉水車を「トルコ式」と呼んでいて興味深い。ちなみにハンガリーの製粉水車はすべて「ローマ式」である。なお,水車すなわち石臼の回転方式はトルコ・クレタ島では反時計回りであり,ブルガリアでは反時計回りと時計回りが混在する。ちなみにハンガリーの製粉水車場の石臼はすべてが時計回りである。一方,ハンガリー平原およびトルコのエーゲ海沿岸にみられたと同様の製粉風車は,ブルガリアの黒海沿岸およびクレタ島でも多かったが,今日ではそのほとんどは遺跡である。検証の結果は,石臼の回転方向の地域差は水車の場合と一致する。 3.紡織技術関係:ハンガリー東部の「ベレギ地方博物館」に所蔵される厖大な量の紡績具および刺繍・縫取織のエプロンについて,それらの紋様と使用地域を分類・調査し,先方館長との共同執筆による調査報告書作成に向けての作業を進めた。 4.民族衣裳・民具関係:ブルガリアでは,トロヤン,コテル,スモルヤンをはじめ各地の博物館・野外博物館において,伝統的な民族衣裳・民具に関する資料・文献の収集に当たった。なお日常生活面においてはこれらの伝統色は,西欧色の滲透とともに農山村地域でも徐々に消滅しつつある。クレタ島では特に民具の面でトルコの影響が強く認められる。ただ,カーペット紋様に海に関連するモチーフが生かされるなど,島国としての性格も色濃くみられる。 5.民間関係:ブルガリアの民家はその屋根構造によって,(1)バルカン山脈山間部に多くみられる丸屋瓦葺屋根タイプ,(2)南部地域に多くみられる地中海式の石葺屋根タイプ,(3)各地とりわけ東南部に多いトルコ式ドーム屋根タイフに分けられる。今回の調査では特にヴェリコ・タルノボやアルバナシ村において(1)の例を多く取材したが,石畳道とともに織りなく景観は独特のものがある。また(2)については,南西部のスモルヤンの町やトウラの野外博物館において多くの事例を取材した。 6:灌漑水利技術関係:まずブルガリアでは,現役の揚水水車の存続を確認できていないが,ヴ閲リコ・タルノボ近郊にある園芸博物館に伝統的な揚水装置,いわゆるブルガール車が保存されているとの情報を得ることができた。また,小規模な地下水の風車揚水が同国東部の丘陵地でなされていることを確認している。つぎにクレタ島においては,東部から中部にかけて風車灌漑がみられ,とくに東部のラッシティ地区では政府による伝統的な景観保存事業によって高原上に多数の灌漑用風車が動態保存され,かつ,利用されている。ここでは,19世紀末頃に土地の発明家によって,地下水汲み上げ用の風車が開発され,利用されてきた状況の聞き取りを行った。
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