研究概要 |
本研究は,昭和61年度と昭和63年度に科学研究費補助金(海外学術研究)によって実施した「アメリカ合衆国における伝統的建築物の保存・再生・活用に関する調査」の発展的継承を意図するものであり,(a)伝統的民家などを移築・保存・公開する施設(野外博物館),伝統的民家などを中心に、それをとりまく歴史的環境を公園化した施設(歴史公園),伝統的民家などによって構成される町並みを修復・活用するために処置を施した地域の実情に注目し,(b)日・米・欧における具体的な事例を集積し,(c)それらを比較研究することによって,(d)伝統的建築物の保存・再生・活用をめぐる理論を提唱することを目的とする研究の一環をなしている。 平成3年度には,計画調書作成時には,期間を3年とし,未調査全地域をカバ-する予定であったが、交付申請時には1年間と期間が縮少されたため,(1)ニュ-イングランドの一部とハドソン川流域(ニュ-ヨ-ク州),(2)北欧・中欧系移民の入植した中西部および中北部の大草原地帯(ミネソタ州およびノ-ス・ダコタ,サウス・ダコタ州東部),(3)太平洋岸地域(シアトル,ポ-トランドとその周辺地域)を重点地域とし,53の施設・地区を調査した。 まず,今回の調査において収集した諸資料の整理を行なった。 これらの地図,案内書,小冊子,研究紀要,写真などは,日本においては入手が困難なものが大半であり,研究代表者らが現地で行なった観察やヒアリングの内容とともに,本研究における貴重な資料となるものである。 平成3年度の調査研究によって、我々は,ようやく対象となる施設・地区の分布やその傾向性を全米的な視野で概観できる段階に達したものと考える。すなわち,アメリカ合衆国における伝統的建築物の保存は,(a)各地域社会やエスニック・グル-プのアイデンティティの確立と深く関係していること,(b)したがって,きわめて多様にわたっていること,(c)生活状況の歴史的復元が重視され,そのためのコスチュ-ム・スタッフやプログラムの整備が充実していること。これは1960年末から1970年代にかけての社会状況ー公民権運動をはじめとするーを反映し,真の生活史の復元を求めるリビング・ヒストリ-・ム-ブメント(L・H・M)によって,各施設の内容が充実したことが指摘できる。さらに,(d)都市においては,その再開発にあたり,伝統的建築物の活用によって,その都市独自の景観を構成する試みが顕著であることなどに、きわだった特徴を指摘することができる。したがって,アメリカにおける伝統的建築物は,アメリカ社会の現代的な課題に答えるかたちでの活用がはかられているわけである。 研究代表者らは,当初の計画から削減された地域について,当該課題にかかわる研究を今後も継続する計画であるが,これらの特徴は,将来の研究にあたり,重要な視点を示唆するものといえるのである。
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