研究概要 |
今回は、英国のロンドン(イングランド南部地域)を調査の対象とした。ロンドンでは、(1)薬物依存研究所(ISDD),(2)ロンドン大学:セント・ジョ-ジ医科大学,常習行動学科を,また,マンチェスタ-では,(1)プレストウォッチ病院の薬物調査部,(2)アルコ-ルと薬物教育に関する諮問機関(TACADE),(3)マンチェスタ-大学,公衆衛生学部,(4)ライフ・ライン・プロジェクトを訪問して調査した。 セント・ジョ-ジ医科大学とプレストウィッチ病院は、それぞれイングランド南部と北部の薬物乱用者の登録・治療・予防体策の中核的な機関であり、代表者のGhodse,A,H教授(セント・ジョ-ジ医科大学),Donmall博士(プレストウィッチ病院)は,WHO薬物乱用予防に関する委員会の主要メンバである。一方,ISDDは、薬物乱用とその予防に関する全般的な情報の収集,保存,提供と研究助成,また,TACADEは学校における,ライク・ライン・プロジェクトは、地域における薬物乱用教育システムの開発を主な目的とする組織である。マンチェスタ-大学,公衆衛生学部は,癌の第一次予防の視点から禁煙教育に関する研究業績を持っている。 今回の調査から以下の点が明らかになった。 1.英国における薬物乱用の実態 最近,10年間の英国における薬物乱用の実態は、法務省の登録によると増加の傾向にあり,乱用薬物の90%をヘロインが占める。 また,近年は,多剤乱用者の増加がみられる。さらに,AIDS(HIV)予防の観点から薬物乱用防止がとらえられることが多い。 2、英国における薬物乱用の予防及び治療システム 薬物乱用者に対する治療システムをセント・ジョ-ジ医科大学,常習行動学科の例でみると、この部門は,精神科医,臨床心理士(CP),ソ-シャルワ-カ-(PSW),作業療法士(OP),教育士,看護婦,予防指導者(Preventisnist)などの職種からなる75名から80名のスタッフで構成され,異った職種の共同・協力で,治療・教育・研修・研究が進められるのが大きな特徴である。業務は入院治療チ-ム・地域薬物問題チ-ム・研究チ-ム・24時間電話相談チ-ムなどに分かれて進められている。特に,一般医,刑務所医官を対象とした研修課程には嗜癖行動専門家養成コ-ス(1年間),CP・看護婦・病院勤務医を対象としたアルコ-ル薬物問題研修コ-ス(20週)があり、各コ-スとも人気が高く、専門的能力の習得が容易であることから常に定員をオ-バ-しており、Needの高さを反映している。 3、英国における薬物乱用者の登録と疫学分折のためのDatabase 英国の薬物使用に関するデ-タァ-ベ-ス(Substance Vse Data Base)は,1年前に導入され,全国の薬物乱用の相談,治療施設からの個人情報が登録されるシステムである。これに、各地域ごとに独自の項目が附加される。また,登録者の個人情報の保護に特段の配慮がなされ,Hidden Populationの堀し起こしが試みられている。 以上のことは、今回の英国における薬物乱用防止に保る主な組織機関における短期間における調査内容のまとめの主なものであるが,これらの調査内容,特に収集した各種の資料を継続して分折整理することによってさらに詳細な内容が明らかになる。 また,今回の調査の実施によって今後,ヨ-ロッパ(特に,イギリス,スウェ-デン等)およびアメリカにおいて「薬物乱用防止に関する総合システム」を調査するうえで,調査の対象,観点,内容,さらには調査方法等を効率よく実施することが出来る貴重な経験となった。
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