研究概要 |
(1)胃癌症例の病理学的分析第一歩として,これまでに診断された日系人および非日系人の胃癌症例各々約150例の切除標本を組織学的・免疫学的疫学的方法で比較検討した。平均年齢は,日系人男性:56±11歳,日系人女性:56±13歳,非日系人男性:53±12歳,非日系人女性:54±14歳であり,若干非日系人が高い傾向にあった。男女比は,いずれも男性2:女性1であった。組織分類については,日系人は印環細胞癌,非日系人は低分化膜癌の頻度が相対的に高く,この組織型の差異は,発症要因においても違いが存在することを示唆した。しかしながら,ヘリコバクターの陽性率においては,大きな差異はなかった。 (2)胃癌の症例対照研究サンパウロ市内の11病院(A.C.Camargo,Clinicas,Heliopolis,Ipiranga,Nipo-Brazil,SaoPaulo,Servidor E.,Servidor M.,Sta.Casa,Sta.Cruz,Beneficienca Portoguesa)で診断された40歳以上80歳未満の日系人(一世および二世),および非日系人(イタリア,ポルトガル,ドイツ系など)の胃癌患者と性・年齢(±3歳)・人種などをマッチした対照について,面接によるライフスタイル聴取と血液の採取を含めた症例対照研究を行った。平成3年6月より患者および対照の登録が始まり,現在迄に,日系人胃癌34例,非日系人胃癌189例を登録した。また,33例の日系人対照と171例の非日系人照の登録も行った。これら登録対象者に対しては,食生活などの生活環境要因についての面接による質問調査,および血液20ccの採取も行い,血液は遠心分離して,血漿・リンパ球・赤血球にわけて,超低温下において,保存している。また,胃癌患者に一部については,胃癌部と非癌部から組織も同時に採取している。189例の非日系人胃癌の人種的・民族的背景は,白人107,黒人17,混血25,イタリア系4,ドイツ系2,スペイン系8,ポルトガル系21,その他民族5となっている。 (3)肺癌の症例対照研究サンパウロでの共同研究を推進している過程において,リオ・デ・ジャネイロにおいて最頻のがんである肺癌の発症要因究明のための疫学研究のプロポーザルが連邦立リオ・デ・ジャネイロ大学よりあり,症例対照研究を実施することになった。1986年の都市の死亡統計では,肺癌は男性のがんの約20%を占めており,続く胃癌の12%を大きく引き離しており,その原因を明することは,公衆衛生上重要な課題である。サンパウロの胃癌症例対照研究のプロトコールを基本に,肺癌用に修正を加えて行い,123組(男性:99,女性:24)のペアが集められた。人種的背景は,黒人が2割(24組)で,残り8割(99組)が白人や混血であった。組織型の分布は,平上皮癌が80で65%,膜癌が25で20%を占せた。対照の疫患の分布は,循環器疫患27%,皮膚疫患12%,整形外科疫患9%,眼疫患7%,外科疫患7%,泌尿器疫患7%,消化器疫患7%などが主なもので,多種数の疫患にわたっている。出生地もリオデジャネイロであるものは,患者55%,対照42%,即婚者の割合は,患者59%,対照72,教育歴がないものの割合は,患者21%,対照13%,国の最低給与未満の低所得者の割合は,患者の30%,対照18%と,肺癌患者は対照に比べて社会経済的地位の低い者の割合が多かった。タバコについては,未喫煙者に対するシガレット喫煙のオッズが12,シガレットと手巻タバコの併用者のオッズ比が30で,喫煙がリオデジャネイロの肺癌の発生に密接な関係があることが示された。特に,製品となっているタバコを買えない,低所得者層における,自家製の手巻きタバコのオッズ比が製品となっているタバコに比して極めて高かったことは,注目すべき結果であった。また,喫煙開始年齢,喫煙期間,喫煙本数,喫煙指数,喫煙停止期間らとの間に明かな用量-反応関係も認められた。食生活との関連では,黄色野菜の摂取頻度との間に負の相関が,牛肉の摂取頻度との間に正の相関が認められた。さらに,123組,246名の抹消血より抽出したDNAについて,近年肺癌の個体感受性のマーカーとし注目されているP450IA1の遺伝子型についてMspI polymorphismの検討も行った。A,B,C3つの遺伝子型の分布は,それぞれ63%,29%,8%であり,肺癌患者と対照との間に差を認めなかった。しかしながら,黒人と非黒人との間に,C type の頻度に差を認めた。
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