研究分担者 |
太田 信廣 北海道大学, 工学部, 助教授 (70113529)
PILLーSOON SO ネブラスカ州立大学, 化学科, 教授
SONG Pill-Soon Department of Chemistry, University of Nebraska, Professor
RENKE Dai ネブラスカ州立大学, 化学科, 博士後研究員
PILLーSOON So ネブラスカ州立大学, 化学科, 教授
西村 賢宣 北海道大学, 工学部, 助手 (60218211)
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研究概要 |
生体系光受容器官は,発色団分子が蚕白ネットワークの中に極めて機能的に配列し,光合成反応,植物成長点に光制御,光走性運動などにみられるように,高速にして高効率であることにおいて特徴的である。一方,人工系において機能分子の空間配列を制御することは,ラングミュア・ブロジェット(LB)膜,高分子フィルム,液晶などの分子組織体において可能となり,生体系と同様な高効率分子過程が期待される。本研究課題では,生体系の光化学過程の機構をピコ秒時間分解蛍光分光法に基づいて追跡し,生体系の高効率超高速反応の機構が分子集団システム構蔵とどのように関わっているかを明らかにするとともに,上にあげた種々の分子組織体における光化学特性を解析し,生体系と比較対照し,さらに生体系にヒントを得て機能性分子素子を考案しようとする。生体系としては,単細胞原形質動物であるラッパ虫およびゾウリ虫における光走性運動の光受容器官をとりあげ,一方,人工系としてはLB膜をとりあげ,光化学過程の特性を明らかにし分子素子の製作を行った。研究成果は次のように要約される。 【生体系における光化学プロセス】 (1)光補集アンテナ蚕白と光電変換蚕白が明らかにされた。ラッパ虫から各種のステントリン蚕白の単離精製を行い,これらについて生化学的同定,ATPase活性についての実験を行い生化学的特性を調べた。その結果,生理活性蚕白と非活性蚕白が分離された。活性蚕白では光励起に次いでプロトン移動が起こること,非活性蚕白では光を有効に集めるアンテナとして作用することを明らかにした。 (2)光化学反応速度が明らかにされた。活性粒子,単離された蚕白および発色団分子ヒペリシンに関してピコ秒レーザーによる反応動力学的研究を行った。とくに蚕白から離されたヒペリシン分子の光化学反応においては,プロトン解離の能力は強くないのであるが,蚕白中にあるときにはプロトン解離が著しく促進されることがわかった。生理活性光受容蚕白における光化学初期過程の速度は6ピコ秒であることがはじめて測定された。 このことに意味は大きく,蚕白中のヒペリシンには周囲にプロトン受容の官能基が配置されており,ひとつの分子システムとして機能していることを示している。 (3)ラッパ虫の蚕白ステントリンおよびゾウリ虫の蚕白ブレファリスミンの比較 それぞれの種の細胞から光受容色素粒子および各種の蚕白質を単離し蚕白のサイズなどについて生化学的同定を行った。次いで単離した蚕白について,吸収・発光スペクトル,ピコ秒時間分解蛍光特性について調べ,単離された色素粒子の種類と蛍光特性との関連について調べ,2つの異なる種の蚕白の構造と機構の違いについて詳細に明らかにすることができた。 【人工系光化学プロセス】 (1)LB多層膜を用いて人工光捕集アンテナを作製した,LB多層膜を用いて各種の色素分子を積層し光励起が一方向に伝達する人工アンテナ系を作製し,生体系と同様な機能をもつアンテナ系をつくることができた。 (2)ヒペリシンを含むLB膜の作製 発色団子としてのヒペリシンをLB多層膜中に組み込み,光によるプロトン移動の反応制御について基礎的な知見を得ることができた。 本研究の結果,生体系の光受容器官の機構が解明されたとともに,生体系に類似した分子システムの設計製作に関して,Song教授から生体系と人工系の比較の立場から多くの貴重な助言が与えられ,将来の光分子デバイスの展開において重要な研究指針が与えられた。
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