研究分担者 |
WOLF GUENTER ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY), 主任研究員
渡部 隆史 東京大学, 原子核研究所, 学振特別研究員
喜多村 章一 東京都立大, 理学部, 助手 (60106599)
椎野 二郎 (椎野 二男) 東京大学, 原子核研究所, 助手 (20092231)
久世 正弘 東京大学, 原子核研究所, 助手 (00225153)
徳宿 克夫 東京大学, 原子核研究所, 助手 (80207547)
石井 孝信 東京大学, 原子核研究所, 助手 (90134650)
浜津 良輔 東京都立大, 理学部, 助教授 (20087092)
広瀬 立成 東京都立大, 理学部, 教授 (70087162)
奥野 英城 東京大学, 原子核研究所, 助教授 (10013400)
WOLF Guenter ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY), 主任研究員
笠井 聖二 , 学振特別研究員 (70221869)
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研究概要 |
昨年度までに,国際協力によってカロリーメーター等の主要測定器を完成させた後,HERAのビーム衝突領域に移動して,宇宙線を用いたデータ取得試験を済ませていた。また,衝突装置HERAも,測定機移動までにビーム衝突のテストを行い,ルミノシティー検出器により最初の衝突が確認されていた。 今年度は,当初より測定器の電磁石を励磁した状態で衝突試験が行われ,同時に測定器を動作させてビーム貯蔵時の,各々のビームからのバックグランドの測定を試みた。その際主として陽子ビームに由来する多量のバックグランドを軽減するためのトリーガー条件の検討と,解析時におけるバックグランドの識別方法を開発した。 1現象当たりのデータ量が多量で平均100キロバイトを超えるので,データ取得系への負担を軽減するために,初期のトリガー段階でバックグランドを除くことが重要であった。そのため,陽子ビームの上流2mのビームパイプ近傍に,小形のシンチレーションカウンターを設置し,出力信号を高速でデジタル化して初段トリガーに飛行時間差情報を取り入れる手段を開発した。バックグランドの3分の1を除去できた。また,カロリーメーター読みだしの光電子増倍管出力からも1ナノ秒以下の精度で飛行時間測定ができ,第3段階トリガーに用いるほか,解析段階ではビームガス反応に由来するバックグランドを,ほぼ完全に判別できることが分かった。 夏までに820GeV陽子と26.6GeV電子を衝突させて,最初のデータ取得を行った。ビーム電流が小さくルミノシティーは低かったが,衝突装置,測定器,データ取得系の総合試験として成功した。データを用いて,オンライン,オフライン解析の考察を行った。反応後の生成粒子中に孤立した電子が含まれた反応を検討したところ,生成粒子がビーム衝突点から発生しており,中性流電弱反応による深非弾性散乱と考えられることが分かった。また,電子が散乱角ゼロでエネルギーを大幅に失い,ルミノシティー測定器の電子検出器で捕らえられている現象が多数見つかった。これは,電子に伴う仮想光子と陽子の光反応と考えられることが分かった。 夏期停止期間に衝突装置の改善がなされ秋に再度データ取得を行って,約30(1/ナノバーン)の全ルミノシティーを集積した。深非弾性散乱と仮想光子反応それぞれについて以下の知見を得た。 1 深非衝性散乱 (1)4元運動量移行が1000(GeV/c)^2を大きく超える従来観測されたことのない反応が記録された。また荷電流弱反応による深非弾性散乱と考えられた反応も見つかった。どちらもまだ例数は少ないが,ルミノシティーが現在改善されたのにともなって1桁以上増加すると予想され,今後は十分解析できることが判明した。 (2)4元運動量移行が100(GeV/c)^2代の反応が多数記録された。この場合はスケーリング変数(x)が従来観測できなかった小さな領域(10^<-3>以下)に関してもデータが得られた。この領域はまだ量子色力学(QCD)で計算出来ないところで,構造関数に関していくつかのモデルが提唱されているが,今回得られたデータでその選別ができた。 (3)終状態のハドロンは予想どおりジェット構造を示すが,中に明らかな3ジェット以上の反応がみられた。これまでレプトン反応ではエネルギーが低かったせいで顕著には観測されていなかった。HERAでは十分エネルギーが高く,幅広いエネルギー領域でこうしたジェット,QCDの系統的解析が可能と分かった。 2 仮想光子反応 (1)光子-陽子の反応全段面積を重心系エネルギー210GeVで測定した。従来約20GeVまでしかデータがなく,高エネルギーでの振る舞いが宇宙線反応等に関して問題とされていたが,今回の測定で,急激な上昇はなくわずかに増加しているだけと判明した。 (2)高エネルギー光子と陽子の反応における光子の振る舞いが,QCDで予想されるとおりに複雑なものであることが分かった。光子の構造関数について,従来電子陽電子反応で測定されていたものよりはるかに高いエネルギーで測定できることが分かった。
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