研究分担者 |
O. HANSEN 米国ブルックヘブン国立研究所, 主任研究員
木村 喜久雄 九州大学, 理学部, 助手 (60108636)
杉立 徹 広島大学, 理学部, 助手 (80144806)
秋葉 康之 東京大学, 原子核研究所, 助手 (80192459)
永江 知文 東京大学, 原子核研究所, 助手 (50198298)
浜垣 秀樹 東京大学, 原子核研究所, 助手 (90114610)
西川 公一郎 東京大学, 原子核研究所, 助教授 (60198439)
橋本 治 東京大学, 原子核研究所, 助教授 (50092292)
HANSEN Ole Chief Scientist Brookhaven National Laboratory
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研究概要 |
米国ブルックヘブン国立研究所AGS加速器での高エネルギー原子核衝突国際共同実験は,平成3年度から4年度にかけて核子あたり14Gevの高強度シリコンビームを用いた実験を行ない,更に核子あたり11Gevの金ビームを用いた実験の予備的な実験を行なった。 前者の実験は磁気スペクトロメータを中心とする実験システムを用いてπ中間子,K中間子についての2同種粒子相関実験,低い生成断面積を持つ負K中間子,反陽子の高統計測定を目指したものである。 2粒子相関からは,反応系の大きさ,反応の持続時間についての情報が得られると考えられている。正K中間子の原子核物質中での平均自由行程がπ中間子に比較して長いため,反応の早い時点で反応系との相互作用が十分に弱くなり,従って原子核物質におけるバリオン密度の高い状態の情報をもたらすものと予想されている。なお,原子核ビームを用いたK中間子についての2同種粒子相関の測定は世界で最初の試みである。 負K中間子,反陽子の生成断面積については,いずれの粒子も原子核物質中で強く吸収される性質を持つと考えられるため,その収量の系統的な変化から原子核物質の密度についての情報が得られると期待されていた。今までの実験においては収量が少ないために結論が出せないままになっていた。 これらの測定には100万/秒程度の高強度入射粒子が必要とされるが,データ収集能力の限界からすべての事象を記録することはできない。この為,スペクトロメータを荷電粒子が通過した事を検知し,更に通過粒子についてその運動量,飛行時間から粒子の種類を同定する処理を数十マイクロ秒以内に行なう主スペクトロメータ系のトリガーシステムを開発し,事象を選択的に記録することに成功した。 π中間子,K中間子の2同種粒子相関実験の実験の解析は現在も進行中であるが,例えばシリコン原子核と金原子核の中心衝突の場合,π中間子の場合の反応サイズはK中間子の場合に比較して有意に大きいことが示された。データの解釈について検討を進めている。 反陽子の生成断面積の解析は一部データを除いてほぼ終了した。解析結果を古典的な描像に基づくモデル計算と比較したところ,予想に反して,生成反陽子は原子核物質中でほとんど吸収されないと仮定した場合と矛盾しない結果を得た。 さて,これまで,AGSにおいてはシリコンまでの軽いイオンの加速が可能であったが,AGS加速器への前段入射器AGS-Boosterの完成に伴い,金までの重いイオンでの実験が可能となった。金等の重い原子核同士を衝突させることにより,高エルネギー密度状態の原子核物質を研究するにより理想的な条件,即ち,より高いバリオン密度状態を広い空間に長時間,を実現できる可能性が理論的にも予想されている。 平成4年5月始めて金ビームの加速に成功をおさめ,1週間以内の短いビームタイムであったが予備的な実験がおこなわれた。まず,金ビームのクォリティを調べたが,金ビームの純度は99%以上であることが確かめられた。次に,300本の鉛硝子シャワーカウンター及び,前方ハドロンカロリメータを用いて,横方向中性エネルギー流と前方エネルギー流の測定を行なった。更に,既存のスペクトロメータを用いて,後方角度での放出粒子運動量分布の測定を行なった。現在,データ解析を急ぐと共に,前方角度での粒子測定用の小角度スペクトロメータの建設を進めている。
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