研究分担者 |
劉 忠民 中国科学院, 西北水土保持研究所, 高級実験師
〓 厚遠 中国科学院, 西北水土保持研究所, 副研究員
陳 国良 中国科学院, 西北水土保持研究所, 研究員
山 侖 中国科学院, 西北水土保持研究所, 研究員
杉本 幸裕 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 助教授 (10243411)
本江 昭夫 帶広畜産大学, 畜産学部, 助教授 (30091549)
高橋 英紀 北海道大学, 大学院地球環境科学研究科, 助教授 (20001472)
稲永 忍 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 教授 (40124664)
一前 宣正 宇都宮大学, 雑草科学研究センター, 教授 (50008067)
武田 和義 岡山大学, 資源生物科学研究所, 教授 (90003516)
田村 三郎 東京大学, 名誉教授 (50011771)
ZHOU Hou Yuan Research Associate Prof., Northwestern Institute of Soil and Water Conservation,
CHEN Gou Liang Research Prof., Northwestern Institute of Soil and Water Cunservation, Academia
SHAN Lun Research Prof., Northwestern Institute of Soil and Water Conservation, Academia
LIU Zhong Min Research Asistant prof., Northwestern Institute of Soil and Water Conservation,
すー 厚遠 中国科学院, 西北水土保持研究所, 副研究員
崔 書紅 中国科学院, 蘭州沙漠研究所, 助理研究員
宝音 烏力吉 中国科学院, 蘭州沙漠研究所, 副研究員
王 涛 中国科学院, 蘭州沙漠研究所, 副研究員
鄒 厚遠 中国科学院, 西北水土保持研究所, 副研究員
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研究概要 |
この研究では,黄土高原の水土の流出を防ぎ,砂漠化を防止することを最終的な目標に,基礎的な調査・実験を重ねていくことを基本としている.すなわち,今までの研究で,砂漠化の防止には,(1)植生を失って裸になった傾斜草地に,現地に適応した草を選抜して播くこと,(2)冬季迄行われている羊の放牧を制限し,貯蔵飼料を生産して給与すること,(3)土壌流出の激しい傾斜耕地を草地に戻し,食糧生産は平坦地に限ること,(4)これにより縮小する耕地面積に対応して,食糧の単収の向上をはかること,等が重要な改善方向として浮かびあがっており,これを実証することが課題となっている.そこで,各分野の主な成果をあげると以下の通りである. (1)気象.降水量が少なく,干ばつ常習地である黄土高原で,土壌水の挙動を斜面の方位と勾配による日射量の相違と,それに伴う冬季の土壌凍結深の違いに着目して,それらが春先の植物の初期成育に重要な役割を演じていることを,土壌凍結深・地温・土壌水分の実測及び微気象観測をもとにした土壌-植物群落-大気境界層の3層モデルによる熱収支解析により明らかにした.この地域においては,南斜面の植生が北に比べて貧弱で,春先の水分欠乏が大きく影響していることが明らかになったが,6月以降は植被量が少ないために水分消費が少なく,土壌水分は逆に南斜面のほうが高くなるという実測結果も見られた. (2)天然草地.標高1750m,傾斜20度の南斜面に,日・米・欧・中から収集した400種以上の草類種子を播き,6年間にわたって成育を観察した結果,イネ科を中心に,4科28種の草が,現地の厳しい気候・土壌条件の中で良い成育を示した.また,上述の試験地に隣接した放牧地の斜面に,コスズメノチャヒキ種子を播き,羊の放牧を3年間禁止した結果,放牧を継続した場合にくらべて,植被率は32%から88%に回復し流出土砂量は24%に,流出水量は46%に減少した.従って,上述の草類を丘陵斜面に導入し,一定期間の放牧を禁止すれば,黄土高原にも緑が回復し,水土の流亡が大きく抑制されると思われる. 放牧と刈取処理が植生とその生産性に及ぼす影響を明らかにするため,放牧・刈取処理を繰り返す実験を行って,植物の出現頻度を調べた.この結果から,家畜生産のためにステップを利用して行くには,刈取利用か軽放牧による利用が望ましいと思われた. (3)作物栽培.砂漠化を防止し,環境に調和した作物生産を行うためには,表土流出の原因となっている斜面の耕地利用を中止する必要がある.現在斜面には,春小麦・えんどう等が栽培されているが,それらの作付けを中止するには,まず平坦地のこれら作物の単収を増大させることが前提になる.こうした観点から,主食である春小麦の収量増大方法について栽培技術面から検討した.その結果,春小麦の収量を限定する最大の要因は土壌水分であり,特に節間伸長期の土壌水分が収量に最も強く影響することが判明した.これは,この時期が幼穂分化期にあたるためで,この時期に土壌水分を高くたもつと,収量構成要素の1穂粒数,粒重が増加して,収量の増大につながる.土壌水分の確保には降雨の多い夏の深耕が有効であり,深耕によって翌春播種時の土壌水分が深度60〜100cmの土層で増大することがわかった.肥料3要素の中では燐酸の肥効が最も高く,次いで窒素で,カリは肥効が認められないことが判明した.燐酸肥料としては過燐酸石灰のような速効性のものが効果的で,これは黄土の燐酸吸収係数が比較的低く,降雨の地下浸透が殆どないことによると考えられる. (4)育種.1129の麦類導入品種のうち,637品種が結実した.現地で選抜された品種の中には,ライ小麦,マカロニ小麦,葉身に有毛の小麦が含まれ,耐干性のメカニズムや遺伝性を解析する材料として,また耐干性の育種素材として活用する予定である.最終年には収量の検定を行ったが,有毛の品種がとくにバイオマスが大きく,注目された.持ち帰った2条大麦の蛋白含量が16〜17%と驚く程高く,その理由を検討する必要がある.6年間の経験から,水と肥料とを十分に与えることを前提とした,わい性の多肥多収型近代品種が,半乾燥,少肥料の現地では全く無力であり,潜在的な生長力(potential vigor)がストレス環境下における多収性に大きく貢献することが明らかにされた.
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